小学校に上がる前の頃、私の周りでは折り紙や千代紙が流行った。折り方を順に図示した本を見ながら、鳥や動物や花や虫や、あるいは福助、キューピー、帆掛け舟、飛行機、兜、籠、紙鉄砲(振るとパンと音の鳴るやつ)などをみんなして折って遊んだ。子供向けの駄菓子屋や玩具屋には、とりどりの色、模様の紙が束ねられて並んでいた。気に入った模様の紙は折らないで最後までとっておかれることが多かった。子供は収集癖のあるものだから、大量の千代紙をセロファンの封を切らずに大事にしまっている子も少なからずいた。
私は折り紙セットにほんの数枚だけ入っている金属箔質の紙が好きだった。金や銀、金赤色や紫色の反射光沢を放つ紙。とりわけ好きだったのは青とも緑ともつかない青竹色のと濃い藍色のとで、これほどきれいなものがこの世にあろうかと思っていた。シワのない真新しい紙は鏡のようにすべすべで滑らかに光り、折り目をつけるのが非常に惜しかった(使いきらないと新しいのを買ってもらえないので、結局折ってしまうのだが)。
キラキラと美しい色に光るものへの愛着は、今振り返っても疑う余地のない本然的な志向で、繰り返しサイトに書いてきたことだが、人間が宝石に対して本能的に抱く執着と軌を一にしているのに違いない。
社会人になって鉱物への興味が本格化したとき、私がまっさきにアテられた標本のひとつはコベリン/銅藍だった。その青色の金属光沢が、かつての箔折紙への愛着を呼び起こしつつ、私をぞっとするほどの深い淵を覗き込むような恍惚に導いたのである。私は自分が5歳の頃と少しも変わらない意識を保ったまま体だけ大人になったこと、幼い心が惹かれたそのままに、今もあやうい忘我の虚無に惹かれていることを知った。
コベリン/コベライトは銅と硫黄の化合物で、重要な銅鉱石のひとつである。和名、銅藍は
Indigo-copper の訳か。藍や赤紫色のイリデッセンスを放ち、
一度見ればその特徴を忘れることはない。葉片状の結晶の集合を作るが、整った(六角板状)単結晶を示す例は少ない。一般的な標本は完全なへき開面が見せる新鮮な金属光沢がその魅力となっている。
初生のものもあるが、ふつうは銅鉱床の二次的な生成物であって、黄銅鉱、輝銅鉱、斑銅鉱等を伴って二次富鉱帯に産する。黄銅鉱から変化した最終形態に近いものと考えられるが、さらに酸化が進むと赤銅鉱に変化する。イタリアのベスビアス火山やバルカン島などでは火山活動による昇華物として産することもある。学名はベスビアス(原産地)で本鉱を発見した
N.Covelli に因む。組成 CuS だが、構造式は CuS2・Cu2S
のようでS2
の二重結合が存在する。この二つの成分が互層をなして積み重なるが、層間の結合が弱いためにシート状に剝がれるらしい。モース硬度は1.5〜2で、たいへん柔らかい。折り曲げ厳禁である。
補記:ジョージア州のカントン鉱山に産した銅藍の一種で
Cantonite
と呼ばれるものがあった。立方体のへき開が発達して六面体をなした。Genth
はコベリンのハリス鉱仮晶としたが、ハリス鉱は方鉛鉱が輝銅鉱に置換したものであるから、それがさらに置換されたということになろうか。midat
は方鉛鉱が黄銅鉱に置換したものの仮晶としている。