726.孔雀石 Malachite (USA産)

 

 

malachite pseudo after azurite

マラカイト(アズライト仮晶) -USA、モレンシー産

 

青石(しょうせき)は楽器の笙の具合を整えるためにリード(青銅製)の面に塗る天然の孔雀石の粉末である(cf.孔雀石の話)。笙は奈良時代に中国から渡ってきたので、調整法もまた中国伝来であろう。「しょう」に塗る石だから「しょうせき」と呼ばれたと見当がつくが、そこに色を示す言葉が重ねられている(あるいは逆に色を示す言葉に楽器の名が掛かっている)。中国では赤、青、黄、白、黒の5色を正色として陰陽五行に対応させたが、青は「木」であり「春」であって、今日の我々の感覚でいうと植物の青、つまり繁る青葉の色(緑)とこれに類似の色を指した(いわゆる青物(野菜類)の色)。
そして青葉も走りの新芽の初々しさを表現するのに「みどり」の語がもちいられた。(cf. ひま話 翡翠の名の由来
従って、緑青(ろくしょう)とは若々しく溌剌とした葉の緑色といったニュアンスを持ち、それが孔雀石の色ということになる。この石に葉色を見るのは古代において東西共通の認識であったようだ(cf. マラカイトの語源 No.725)。

一般に昔は青色と緑色が区別されなかったと言われるが、これは緑色を呼ぶ色名が日本語になく、青の語が青色から緑色までの広い範囲を指していたという含みである。しかし実際には緑色を正色(いわば原色)として青と呼び、青色は中間色(雑色)として必要に応じて別の語(碧、蒼、紺など)で区別することは可能なのであった。
色調をどこまで細かく、あるいは何を境界として区別するかは本来恣意的なもので、どんな言語でも細分化は必要に応じて行われている。古代には(無彩色の白、黒は別として)色名は青と黄と赤しかなかった、といえばそうかもしれないが、それは当時の人がこれより細かい色のニュアンスを識別できなかったことを意味するのではない。
江戸時代には染物の世界で何百という色名が存在したが、いわば専門用語であり、この世界ではそれだけの細分化が必要だったのである。逆に言えば一般人にはそこまでの区別はまったく必要なかっただろう。ちなみに緑青(銅青)に似た染め色は「花緑青」(はなろくしょう)と呼ばれたが、絵画の世界においては粒度の違いによってさらに細かい区分がなされた。

画像は藍銅鉱の結晶が後の風化作用によって孔雀石化した標本。このような変化は自然界ばかりでなく、顔料として使われた藍銅鉱においてもみられる。数世紀前のヨーロッパでは紺青色の岩絵の具として、フランスのリヨンに近いチェシー産の藍銅鉱(チェシーライト)が多く供された。空の色などに用いられたが、今日では孔雀石化して緑色の空になった絵画もあるという。つまり孔雀石化は日常的な環境において進行可能なのだ。かくて青色は緑色に変わる。

補記1:天然の緑青に類似の人造の顔料は銅青(ろくしょう、どうせい)と呼ばれたが(孔雀石の話)、この場合の青はもちろん緑色を指した。

補記2:時代が降ると、青と緑の語はその役割を転換して、かつて青と呼ばれた色は緑と呼ばれるようになり、若々しさを表現したみどりの語は、あおの語で表現されるようになった。青春とかあおい(≒未熟な、の意)とか青畳とか、の言葉がそれである。

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