771.バラ輝石 Rhodonite (オーストラリア産ほか) |
バラ輝石(1819年記載)は比較的単純な組成のマンガン珪酸塩である。Dana 8th は (Mn,Ca)5(Si5O15)の式を示しているが、5つあるマンガンのサイトは対称性の違いで3種あり、これを区別すると (Mn,Ca)(Mn,Ca)Mn3(Si5O15)になる。最初のサイトのマンガンは選択的にカルシウムと置換可能で、2番目のサイトもこれに次ぐ。その半量ずつがカルシウムに交代すると CaMn4(Si5O15)の式となり、これは天然のバラ輝石に含まれうるほぼ最大のカルシウム量に対応する。まったくカルシウムを含まないバラ輝石は、ない。マンガンの一部は鉄や亜鉛とも置換可能で、亜鉛に富む亜種はサミュエル・ファウラーに因んで、ファウラー石 Fowlerite (1832年)と呼ばれる(もとはフランクリンに産した自形結晶を示すバラ輝石を呼んだ)。(※ 2019年のIMAリストには種名として記載されている。)
変成層状マンガン鉱床の構成鉱物として普遍的に産する。石灰岩スカルンや熱水性の鉱床でも脈状で産する。スカルン中では上述の比率を超えたカルシウムを含むことがある。(hsihutsunite は富カルシウム亜種で、さらにマグネシウムをも含む)。自形結晶は変化に富み、ころっとした六面体状、柱状、薄刃状、板状などさまざま。その形は輝石と同じだが、分類上、バラ輝石は輝石グループに属さない(準輝石)。
種としては珍しくないが、美しいピンク色の塊状石は産出が限られ、貴石として扱われる。18世紀末以降、ロシアでウラル産の石材を用いた貴石細工が盛んだった頃、中央ウラルの
Maloe Sidel'nikovo (Shabrovskiy) で採れるバラ輝石は地元で orlertz
と呼ばれ、孔雀石と双璧をなす石材であった。1858年には45トンを超える巨塊が切り出されて、エカテリンブルクのラピダリー工房で数々の作品に作られた。中に径185cm
の巨大なお碗がある。楽しい図鑑に触れられているモスクワ地下鉄マヤコフスカヤ駅の柱の化粧張りや、大クレムリン宮殿の内装に用いられたのもこの産地の石である。
ロシア以外ではオーストラリア、ニューサウスウェールズ州タムワースが貴石級バラ輝石の産地として有名だった。
上の画像はブロークンヒルの銀・鉛・亜鉛鉱床に産したもの。バラ輝石は主に方鉛鉱や閃亜鉛鉱、黄銅鉱などからなる初生鉱床の脈石鉱物として広くみられる。普通は3-4mmの粒状だが、大きいものは数センチサイズに達する。かつて米国フランクリン鉱山と共に、世界最良の結晶標本産地として有名だった。
下の画像はイタリアのヴァル・グラベグリア産。この地域には
1880年代から1990年代にかけて稼働されたマンガン鉱山がいくつかある。モリネロ鉱山は1980年代にバラ輝石を鉱石として採掘していたが、塊石の空隙に微小な自形結晶が見られることで知られた。ふつうは薄板状だが、時に針状の結晶もある。
バラ輝石は太陽光で褪色する性質があるので、保管は箱や引き出しの中で。
cf.No.135 バラ輝石 cf.No.773 チンゼン斧石(モリネロ鉱山)、 バラ輝石を用いた装飾時計 CMNH蔵