792.洋紅石 Carminite (メキシコ産)

 

 

Carminite

カーミン石 -メキシコ、デュランゴ、マピミ産

 

 

1927年にオハエラ鉱山を訪問したフォーシャグ博士らは、アメリカ・ドス縦坑(旧称ノース・シャフト)近くの小さなズリで塊状ないし晶質のスコロド石を採集し、その空隙にアーセニオシデライト(砒灰鉄鉱)やデュッサール石、カーミン石などの共産鉱物を見出した。カーミン石はドイツ、ラインラントのルイーゼ鉱山を原産として 1850年に報告された種であるが、記載に使用された試料はごく少量だったため分析データの信頼性に欠けていた、と博士は述べ、この時得られた豊富な試料から現在通用している化学組成 2FeAsO4・Pb(OH)2 (今流で書くと PbFe23+(AsO4)2(OH)2)が導かれた経緯がある。
やや暗い赤色を呈し、古来ヨーロッパで愛好されたコチニール(カイガラムシ)色素から得られる濃赤色(カーマイン(英))に似ていることが名前の由縁。 Kermesite (紅安鉱(カーメス(ケルメス)に由来)と同源である。カーミンはドイツ語読み。日本語には洋紅色の訳があり、ひいて本鉱の和名は洋紅石。ちなみにカーミニはロシア語で石(笑)。
コーンウォールやユタ州チンチックでも産出が報告されているが、後者はカーミン石と判定される以前、愛好家の間で「赤いオリーブ銅鉱」と呼ばれていた。結晶形状や集合形状は実際オリーブ銅鉱に似ている。本邦では木浦鉱山や葛原(つづら)鉱山などから報告がある。

オハエラ産の結晶はおおむね 0.5 ミリ以下のサイズで、放射針球状ないしラス板状。標本は60年代にも出ていたが、脚光を浴びたのは 80年代初、ラ・シゲーニャ・ルガーのある晶洞に無色透明の方解石美晶を伴って出た時である。やや紫がかった赤色針球状の結晶が美しい絨毯のように敷きつめられていた。

本鉱の鉄分は亜鉛に、鉛分はカルシウムに置換可能である。1989年に記載された(オーストラリア、ブロークン・ヒル産) Mawbyite モービー石は同質異像。鉄分の多い純粋なものは明るい赤茶色、亜鉛分が入るとくすんだ感じになり、半量置換あたりでは橙茶色を呈する。
2002年にオハエラ産の古い標本群が再調査された時、いくつかは鉛成分をカルシウムに置換した種 Sewardite スウォード石(2001年記載:原産地はツメブ鉱山)にあたると指摘された。

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