817.ヘルデル石 Herderite (ブラジル産) |
Herderite は1828年、ドイツ、ザクセンのエーレンフリーデルスドルフの錫鉱山(ザウベルク鉱山)から報告され、鉱山監督官のジグムント・オーギュスト・ヴォルフガング・フォン・ヘルダー
(1776-1838)に献名された。和名はヘルデル石またはハーデル石が一般的。カルシウムとベリリウムの燐酸塩であるが、フッ素または水酸基をも含む。組成は
CaBe(PO4)(F,OH)。水酸が優越する CaBe(PO4)(OH,F)は別種、水酸ヘルデル石として
1894年に報告されたが(原産地はメーン州パリス郡)、実は
OH より F
が優越する例はほとんどないようで、世にあるヘルデル石標本はほぼ全てが水酸ヘルデル石だと言われている。Dana
8th (1996)には「(天然の)ヘルデル石は存在しないかもしれない」とある。
しかし 1995年にブラジルのMG州メディナ地方のペグマタイトに出たものは
6.9% のF を含み、真正のヘルデル石という(補記参照)。上の標本は
Herderite のラベルがついているが、おそらく Hydroxylherderite
なのだろう。
花崗岩ペグマタイトや錫・タングステンの気成鉱床に典型的に生じる鉱物のひとつで、前者では普通、低温熱水生成物である。原産地は高温の気成鉱床だが、ここではむしろ希産であることが分かった。一方、北米東海岸(ニューイングランド)に散らばるペグマタイトにはあちこちでぽこぽこ出た。No.755に
Fタイプ・トパーズと OHタイプ・トパーズの産出環境について書いたが、この伝でいくと、低温熱水性の環境では水酸ヘルデル石が独占的で、高温気成鉱床にはヘルデル石が出る可能性があると考えられようか。
単斜晶系の構造を持つが、時に双晶によって斜方晶系に見える結晶形を示すこともある。結晶構造はケイ酸塩のガドリン石やダトー石と基本的に同じ(2007年に新設されたガドリン石スーパーグループは、ガドリン石グループとヘルデル石グループとで構成される。ダトー石は前者側)。柱部の結晶面は平坦でなくたいてい丸みを帯びている。球果状のノジュールや、放射繊維状の集合塊として産することもある。
蛍光性を持つ標本があり、メーン州ワイザネン鉱山のものはSW
黄白色、ブラジル・ゴルコンダのものは SW
紫〜菫赤色、上の標本はSW
黄白色に蛍光する。この種の蛍光は結晶の表面部分に風化(変質)が生じたものでみられるという。ポー博士は
LW
深青色のものがあると述べ、また鑑定に熱蛍光性が使えるとしている。木炭上において加熱すると(赤熱発光する前に)すぐに青白色の発光を示し、また軽く加熱する程度(多少ヒビが入ってやや白っぽくなるくらい)の処理で長波紫外線に蛍光性を示すようになる、と。
ちなみにカルシウムをマンガンに置換したものがヴェイリネン石にあたり、これはかなりの希産種である。
補記:メディナ地方 Funil 鉱山産のヘルデル石は、文献によると F:OH 比が 0.56:0.36 (F 6.59%) 、0.69:0.23 (F 8.16%)(2標本の分析値)。90年代にこの地域でトパーズ採集熱が高まった時の余慶で発見されたもので、共産するトパーズもFリッチ。高濃度のフッ素を含む熱水からトパーズやヘルデル石(及び水酸ヘルデル石)が晶出したと考えられる。この他、ミャンマーのモゴック産にF 8.7%のもの、中国 Yichung に 7.25% のものが報告されており、ヘルデル石には少なくともこれら3つの産地があるようだ。