816.チンワルド雲母 Zinnwaldite (ブラジル産) |
錫の産地として知られたチェコのチンワルド(錫ケ森、ツィーノベッツ)の名を冠して、
1845年にハイジンガーが記載したリチウムを含む雲母である。組成式は
KLiFe2+Al(AlSi3O10)(F,OH)2
とされてきた。チンワルドでは幅1mをこえる鉱脈があって、リチウムの鉱石として採集された。
リチウムを含む雲母としては Lepidolite リチア雲母(鱗雲母)が有名で、チェコのモラヴィア産のものがクラプロートによって
1792年に報告されているが、こちらは組成 K(Li,Al)3(AlSi3O10)(F,OH)2
とされた。成分的にはリチア雲母に対して鉄分を必須元素として含むものがチンワルド雲母ということになろう。そしてチンワルド雲母に対して半量以上の鉄分をマンガンが置換したものが益富雲母である。
ただ No.146 や No.285に書いたように、自然界の雲母は理想組成(端成分)よりも中間組成物として産するのが普通で、チンワルド雲母もリチア雲母もその例に洩れない。そのため現在では(1998年以降)どちらも種名から外されて、チンワルド雲母はポリリチア雲母とシデロフィライトの中間相として、リチア雲母はポリリチア雲母とトリリチア雲母の中間相として扱われている。益富雲母はこれらの中間相に属さないので独立種として残っている。ポリリチア雲母(多量のリチウムを含む雲母の意)にはチンワルド雲母や益富雲母が固溶成分として存在して、鉄分やマンガン成分などを含むことがある。
ちなみにリチウムが発見されたのは 1817年で、アルベゾン(アルフェドソン、アルフヴェドソン)が葉長石(ペタル石)からその硫酸塩を得たのであるが、彼はその後すでに知られていた鉱物、鱗雲母とスポジューミンにもリチウムが含まれることを明らかにした。その意味ではこの時から鱗雲母はリチア雲母に、スポジューミンはリチア輝石になったわけである。
画像の標本はミナス・ゼラエス州アラスアイ-サリナス地方のもので、ヴィルジェム・ダ・ラパというペグマタイトにリチア雲母、曹長石、水酸ヘルデル石を伴って産した。よく見られると、淡紅紫色の斑点が散らばっていることに気づかれると思うが、リチア雲母が優勢な部分である。
cf. No.815 灰重石(とチンワルド雲母)、 cf.No.829 リチア雲母(リチウム発見の経緯) ウィーンNHM蔵