840.メリフェン石 Meliphanite (ノルウェー産)

 

 

meliphanite

メリファン石(淡黄色)- ノルウェー、ランゲスンツ、アロヤ(島)産

 

 

白色の鉱物の名に「白い」を意味するリューコ Leuco- をつければ、そんな種はいくらでもあるので、紛らわしい名前のオンパレードになってしまうだろう。一方、前項のリューコフェン石は白いシラーが出ることからその名があるが、主な色調は黄色なのだから、これはこれで紛らわしい。

さてメリフェン石(メリファン石)は、1852年にシェーラー(cf.No.836 補記3によって記載された。原産地はフレドリクスヴァーン(現スタバーン)だが、ブレヴィク(ランゲスンツ・フィヨルド)にも産するとしている。発見されてから報告まで少し間があったと思われる。その名は蜂蜜のような黄色い色調を示すことから、メリノフェン Melinophan とされた(後にMeliphanite)。先に(1840年)ランゲスンツに報告されたリューコフェン石を意識しての命名とみられている。よく似た外観を示すからである。
というより両者はほとんど同じである。Dana 8th (1997)にはリューコフェン石の組成式は CaNaBe(Si2O6F) 、メリフェン石は (Ca,Na)2Be[(Si,Al)2O6(F,OH)]とある。基本的な結晶構造はいずれも 1967年になって示されたが、光学特性や構造を詳細に調べていくと、メリフェン石はあるいはリューコフェン石の双晶に過ぎない可能性があった。そこで、あいにくシェーラーの原標本は行方が分からなくなっていたが、これに近いと思われる標本を使って再調査が行われた。
結果として、両者はきわめて近い構造を持っているものの、やはり違いがあることが分かった。構造を考慮した式を示すと リューコフェン石は Ca4Na4Be4Si8O24F4(上記の4倍式)、メリフェン石は Ca4(Na,Ca)4Be4AlSi7O24(F,O)4。すなわちリューコフェン石ではアルミ成分は皆無かあっても微量だが(必須でないが)、メリフェン石はアルミが必須成分として構造に関わっているのである(J.D.Grice/ F.C.Hawthorne; 2002)。
そして両者は共存しない、という。生成環境にアルミ成分の供給があったかどうかが、どちらの種が出てくるかを決定的に左右するらしい。

ちなみに両者は構造的にメリライト(黄長石) Melilite グループに属するが、この名はやはり色調が蜂蜜色 Meli- であることに因んだもので(1797年 by デラメテリエ)、字義通り訳せば蜂蜜石となる。
類似の名は結構あって、1793年に J.F.グメリンが報告した メライト(蜜ろう石/メリー石) Mellite が先行し、1832年には F.S.ビューダンがメリノース Melinose を示した。黄色いモリブデン鉛鉱 Wulfenite である。また1847年には E.F.グロッカー が黄土(イエロー・オーカー)に似た黄色の粘土をメリナイト Melinite (Melinine) と呼んだ。その後にシェーラーがまた、蜂蜜色に見えるメリノフェンを出してきたのだ。

人は似たようなことを考えるものだが、滋養に富んだ豊かな黄金色の蜂蜜は、たいていの人にポジティブな印象を与えるのではないか。その連想を伴って、黄色い鉱物に好んで蜂蜜の名を冠するのではないか。青春の甘い甘いハチクロの世界である。「ありったけの幸せを あなたに」。

 

cf. 蜜ろう石・ (ヨアネウム6)、 No.509 ハチミツ蛍石

補記:メリノフェンをメリフェナイト Meliphanite と改めたのは J.D.デーナ。命名の由来からするとシェーラーの綴りは間違っていると判断したのだった。

補記2:「イーリアス」などに出てくる古代ギリシャの神々の飲み物にネクタルがある。死(Tar)を克服する(nek)の意で、英語に Nectar。神々はネクタルを飲んで不死身になる。欧州では16世紀頃から花の蜜をこの名で呼んだ。蜂蜜は健康にいいのだ。

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