845.ベタホ石 Betafite (マダガスカル産) |
パイロクロア・スーパーグループの鉱物である。
ベタホ石と呼ばれる(呼ばれた)種は、1912年にマダガスカル島のベタホから記載された。島の中央部アンタナナリボ県には多数の花崗岩ペグマタイトがあり、20世紀初にフランスの鉱物学者たちによって盛んに調査された。ペグマタイトに濃集するニオブやウラン、希土類元素が資源として有用かもしれないと考えられたのである。ベタホ石はその一つベタホ−アントシラベ地域の広大なペグマタイト帯から発見されたもので、スピネル式のころっとした八面体様(十二面体の面も持つ)の結晶をなし、ウラン、チタン、ニオブ、タンタル等を含む鉱物として、A.F.A.ラクロワによって報告された。
その後、1961年にホガースが再定義し、組成式 (Ca,Na,U)2(Ti, Nb, Ta)2O6(OH)が示された。2項目はチタンの比率が(ニオブ+タンタル)よりも多いことを示す。ただウラン鉱物のつねとしてメタミクト化しているため結晶構造は明瞭でなく(形態的に等軸晶系とみられるわけだが)、成分系の異なる部位が共成長的に存在することや、風化によって一部の元素が溶脱・置換されることから、精確な組成を導き出すことは依然困難であった。
パイロクロア・グループの系統は 2010-13年にかけて全面的に見直された。その結果、パイロクロア・スーパーグループの下に、パイロクロア・グループ、マイクロ石・グループ、ベタホ石・グループなど7つのグループ(以前はサブグループだったもの)が設定され、ベタホ石グループにはオキシカルシオ・ベタホ石と、オキシウラノ・ベタホ石の2種(酸化鉱物)が定められた。かくてベタホ石という種は現在ではないことになっている。
一方で従来ベタホ石と標識されてきた標本は、ほとんどがこの2種のどちらでもないことが指摘されている。種を決定するには組成に寄与する水分、水酸成分、フッ素成分の分析が必要になるが、そんなことは普通は出来ないので、ともあれ旧来の「ベタホ石」の名で流通が続いている。ちなみに原産地の「ベタホ石」は数センチサイズに達する大きな結晶があるが、たいていルチルやその他チタン成分に富むさまざまな希産種と共生しており、成分決定自体なかなか難しいものである。(楽しい図鑑2には、結晶表面の白っぽい部分から鋭錐石が検出されたエピソードが記されている。)
現在市場に出回っているベタホ石はベタホ産か、オンタリオ州シルバー・クレータ鉱山産のものが良品とみられ、後者からは15センチに達するものが出た。ベタホのペグマタイトはユークセン石やアンパンゲイブ石 Ampangabeite (サマルスキー石-(Y)の亜種)の標本産地としても知られる。