846.星葉石 Astrophyllite (ロシア産) |
星葉石・アストロフィライトは、ランゲスンツ・フィヨルドのローブン島を原産とする種のひとつである。1844年に
P.C.ウェイビー(1819-1865)が雲母に似た鉱物に気づき、後にその性状から「茶色で閃光を放つもの/茶色雲母」 Brauner
Glimmer と呼んだ(1848年) 。次いで 1854年に、やはりランゲスンツの鉱物を研究した
C.J.A.T. シェーラー(1813-1875)が葉片状の結晶が星光放射する様子から星葉石
Astrophyllite と名づけ、W.C. ブレガー(1851-1940)が踏襲して定着した。
霞石閃長岩中に特徴的に産する鉱物で、たいてい板状〜刃状(葉片状)の結晶を作る。三斜晶系。(001)
にへき開完全で雲母のように脆く、へき開面は金属箔っぽくぎらぎらと輝く。ランゲスンツ・ラルビク地区ではかなり普遍的に産し、建築材・装飾材・墓石などに利用される「ラルビカイト」(真珠光沢がある)にも含まれて彩りを添える。これら岩石中の遍在種(ユビキタス)として扱われている。結晶は時に
10cmに達するが、いつも星形に集合しているわけではない。
いわゆるチタノ・シリケートで、組成式 K2NaFe2+7Ti2Si8O24(OH)4F。チタン成分は(価数の異なる)ニオブ/タンタルによって置換されることがある。その複雑な組成や結晶構造・類縁鉱物の解明が進んだのは 1960年代以降のことで、現在は構造を同じくする星葉石スーパーグループが設定されて、その下の星葉石グループに成分の置換によって本鉱含む7種が分類される。
楽しい図鑑2の本鉱のページに、ランゲスンツが19世紀の鉱物学のメッカだったこと、この歴史的な産地の島々をボートで目指した博士が連れに「君は泳げるのか」と聞かれて困ったことなどが記されている。博士は「イシイシの実」を食べた能力者なのかもしれない。また本鉱は星にも太陽にも見立てることが出来る、とあるが、「太陽」の比喩はわりとメジャーでいくつかの海外文献にも表明されている。暗い真鍮色の放射は老いた赤色矮星の雰囲気を持っている気がする。暗いとはいえ青白い星の冷たい光でなく、なにがしかの温もりを人は本鉱に見るのであろう。
余談だが、ヘブライ語の最初の文字アレフは、人間が片手で天を指し、もう一方の手で地を指す姿をかたどったものだ、とマイリンクの「ゴーレム」(1915)にある。「つまり天上に行われているとおりのことが地上にも行われ、地上に行っているとおりのことが天上にも行われている」ことを示す文字だ、と。そう思えば確かに地上の鉱物には、人が天体を想起するような姿形のものが星葉石に限らず多くある(cf.
スターマイカ、スター水晶、キュマンジェ石、ソーダ沸石、あられ石...
)。
電圧のかかった電気回路で、接触させてあった電極をゆっくり開くと電極間に電荷が保持され、時には放電光が観察される。そのように今、もともと一つだった天地が分かれて以来(開闢以来)、空間に生じた帯電物質が生命であり、生命の火花が意識だとみると、天地は我々の父母であって我々から見て等しく根源的であり、かつて融即的だったものである。であれば天体と鉱物(や元素)とに同じ神々の名を与える行為は人間の心理的事実を如実に示すものといえるし、その郷愁ゆえに人は地中の石に天体を観ずるのでもあろう。
星葉石は原産地のほか、グリーランド、カナダ、ロシア・コラ半島などに産地があるが、出回っている標本はたいていコラ半島ロボゼロ産である。ロボゼロにも複数の産地が知られるが、多くの標本は
Eveslogchorr
山地で採集されたものだという。曹長石化が進んだカリ長石中に旭日旗様の「太陽」が埋もれており、例によって世界最良の呼び声が上がる。
ロボゼロでは鉄成分よりマンガン成分の優越する種
クプレスキー石 Kupletskite も出て、1956年にセミョーノフによって記載された(ロシアの2人の地質学者、ボリスとエルザの姓に因む。彼らが夫妻なのか兄妹なのか他人なのか気になる。年は13離れている)。当時は星葉石と同じグループに分類されていたが、現在は星葉石スーパーグループの下にクプレスキー石グループとして分けられている。天地が分かれて生命が進化し人の意識が発達したように、鉱物学が発展すると細分化がどんどん進む。いわば分離と識別力の発達こそ意識と学問の目指すところである。