943.擬三角柱状水晶 Triangular Quartz (ペルー産) |
No.942
で水晶の主要3面( r面、z面、m面)と、これらが構成する結晶形について触れた。
水晶の結晶構造は高温型(ベータ水晶)で柱軸周りに六方晶系。低温型(アルファ型/普通の水晶)では幾分歪んで三方晶系になるが(cf.
No.941)、形状は概ね六方晶的である。柱面(m面)はふつう6つあり、錐面(菱面体面)もふつう6つあるが、
r面と z面のサイズに違いのある場合が多く、三方晶的な性格を持つことが窺われる。
No.942の標本のように r面が寡占的に大きな面として現われると(柱面はないか、短い)、サイコロのような菱面体形(キュービック・ハビット)を示して、三方晶的な性格がはっきりする。
またふつうに柱面があっても z面を欠いたり(稀れ)、あるいは
r面よりも著しく小さい場合(よくある)は、錐面が3ケに見えて、やはり三方晶的な性格が強く現れる。下図の中の結晶図(r面と
m面とで構成された形状)がそれで、この種の晶癖をトリゴナル・ハビット(三方晶癖)という。
上の標本はトリゴナル・ハビットを示す三錐面式水晶。この形状は方解石でも見られる(2番目の画像)。
一方、柱面の幅が交互に大小を繰り返すと、三角柱に近い結晶形が現われる。これもトリゴナル・ハビットの一種で、針状の水晶(ニードル・ハビット)にしばしば見られる。
3番目以下の画像の標本は蛍石ギャラリーで紹介したものだが、面白い形の水晶として改めて取り上げた。3つの
r面が大きく、3つの z面は著しく小さい。そして r面の下の柱面の幅が広く、
z面の下の柱面の幅が狭い傾向を示している。この標本には比較的大きな結晶が3ケついていて、画像の左から右に順に丈が高くなっている。錐面の上方から見下ろすと、丈が低いもので(断面の小さいもので)擬三角柱的な性格が強く、丈が長くなると六角柱的な性格になっているのが面白い。
蛍石に埋もれて小さな(柱面の細長い)水晶がいくつか見えているのだが、これらは概ね三角柱状になっている。針状水晶にこの形状が多いことと併せて考えると、単一結晶核からの成長の初期には正負の柱面の成長速度に三方晶的な遅速の影響が大きく現われ、結晶が育つと(柱が太くなると/成長の核が分散すると)次第に影響が弱まって六方晶的な形状(六角柱状)になってゆく、という環境条件が存在しうるのかもしれない。
このタイプのトリゴナル・ハビットは、端部に近いところ(錐面の直下)で柱面が3つしかなく尖った三角柱状になっている場合があるが、そうした結晶も下方(根元)に向かうと欠けていた柱面が現われて、六角柱状になっているのが普通である。
補記:つゆねこさんの「石たちの日常 1234合本」 pdf のp.81に同様の擬三角形状の水晶が紹介されている。