963.水晶(成長丘)  Quartz Growth hillock  (USA産)

 

 

 

ドフィーネ晶癖の水晶の最大錐面
鏡面的に整ってみえる No.941と同じ標本
−USA、AK、イーダ山、ブルワー・マイニング産

面反射が見える角度で(偏斜)照明を当てると、
表面の凹凸が強調されて、
微細な成長模様が現れる。
広い範囲で協調的なパターンを持つ
等高線模様(打ち寄せる波のような線)と、
狭い範囲内で屈曲を伴って渦を巻く模様とが見える

屈曲線のある領域は、照明を変えてみると
三角形の低い丘になっていることがはっきりする。

 

No. 962に続けて。
結晶の成長は過飽和度の程度によって優勢な機構が変化する。過飽和度がある程度高いときは、結晶の稜や隅を起点とした二次元核による層成長が優勢で、骸晶と呼ばれる形態が生じやすい。成長速度は速い。
過飽和度が低く、成長が主に結晶面上の欠陥(らせん転位など)による穏やかな層成長によって進行するときは、滑らかで平坦な面が形成されてゆく。成長速度はごく遅い。
一般に自形結晶の形状を決めるのはおおむね二次元核によるステップ式の層成長であり、らせん式の層成長が優越するのは最終段階であって、いわば面のお化粧を行う機構と考えられる。
従って両者の間に、稜(結晶の縁辺)や隅から面上を進んでゆくステップ式の層成長と、面上の欠陥に発する渦巻き式の層成長とが協調的に働いて、骸晶でない単晶的な結晶形/結晶面が形成される状況が広く存在するはずである。

上の標本は米国アーカンソー州産の水晶。ここは長期間にわたって地質環境が安定していたと推察される土地で、堆積岩中を通る熱水の作用で、形状の整った美しい水晶を多産する。cf. No. 49 追記
結晶面の間の縁(稜線)は、まるで機械で切削したかのように直線的で鋭い角を持っている。柱面の条線は真っ直ぐで、面幅を一様に横断している(但し、ある角を挟んだ2面にドフィーネ双晶を想わせる領域があって、境界を挟んで条線に不連続がある)。
錐面の一つが極端に発達したいわゆるドフィーネ晶癖を示すが、1枚目の画像のように、その結晶面はきわめて平滑で整ってみえる。

ところが面反射が起こる角度で光を当ててみると、層成長によって生じた細かな高低差による模様が見えてくる。2枚目がそれである。照明は左下からあてているので、この方向を向いた凸面は明るく、逆側を向いた凸面は暗い。
面はいくつかの分域を持っており、その境界の形は三角形または六角形が基本であることが分かる。またそれぞれの分域の範囲内で屈曲する独立的な模様があることと、複数の領域を跨ってある程度繋がってゆく模様があることが分かる。

3枚目の画像を見ると、左半分の領域に縦に三つの三角形の丘が並んでいる。おそらく、面上の欠陥を起点とするらせん式の成長ステップが多数束ねられて大きな集合領域をなしたもので、鉱物学が微斜面(Vicinal face) あるいは成長丘(growth hillock)と呼ぶものと思しい。一番上の三角形では、そのもっとも高い頂点の周りを回るように屈曲した渦巻き線が見えている。らせん転位による成長ステップは理想的には円形をなして進行するが、結晶構造の異方性に影響されて多角形的な屈曲部をもつのが普通である。
らせん式の層成長は、原理として反射(位相差)顕微鏡で見なければ分からない程度の(分子レベルの)高低差で進行するのが基本だが、過飽和度の程度によって(駆動力が高いと)、このように肉眼で分かるほどの高低差に発達した成長も起こりうると考えられる。

一方、錐面の右上の部分にもいくつかの分域が認められるが、汀に打ち寄せる波のような一連の等高線模様が生じている。おそらく稜線から進行するステップ式の層成長と、各領域のらせん式の層成長とが組み合わさった形であり、やはり束ねられたステップだろう。
そのつもりでみると、この錐面では左側の領域も含めて、二つの成長機構が協調的に働いて平滑な面を作り上げたようである。

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