972.水晶(双晶の識別) Quartz twins (インド産)

 

 

 

水晶 −インド、ヒマーチャル・プラデッシュ、クル谷産

右の結晶の肩の微小面
左にはs面とx面とが、右にはx面が現れた
(s面は極微小にある)ドフィーネ双晶
左手水晶

右の結晶 肩の微小面は現れていないが、
錐面に反射率の異なる領域があり、双晶が疑われる

同じ標本の別の結晶 
右の結晶には肩の左右にs面が現れて、
双晶であることが分かる。おそらくはドフィーネ双晶。
左手か右手かは不明。
また左の結晶の正面の錐面は反射率の異なる
領域があり双晶が疑われる

 

これまで特に説明せずに「ドフィーネ双晶」、「ブラジル双晶」の用語を使ってきたので、このあたりで少し触れておこうと思う。

H.R.Gault "The frequency of twin types in quartz crystals" より
D/B 双晶領域と錐面に現れるフッ酸による食像パターンとの関係
大きな三角はr面、小さな三角は z面

 

まず上の模式図はアメリカン・ミネラロジスト誌 vol34 に載った H.R.ゴールトの「水晶の双晶タイプの頻度」(1949)から採ったものである。著者はアーカンソー産ほか米国内6産地の水晶、計1,200点弱を使って、双晶のタイプ別、及び対掌性別(左手・右手)の出現頻度を報告し、考察した。判別にはフッ酸処理によって生じる食像の形状の違いを利用したが(cf. No.970)、その理由は外観的な特徴(s面、x面などの配置)で判断できる結晶は一部に過ぎないからである。未処理の結晶はなんの判断材料も示さない(見分けがつかない)のが普通であった。

処理を行うと、図に示された通り r面と z面とで異なる形状の食像が生じる(形状の詳細は No.970参照。また結晶構造の対掌性に応じて形状に左右対掌性が現れる。
この考えに立って観察すると、多くの標本で(1) r面の領域に z面に特徴的な食像の形状が含まれていた。逆に z面の領域に r面に特徴的な食像の形状が見られた。こうした、いわば越境領域を持たない素直な標本(単結晶と思しい)はむしろ少数であった。また(2)越境領域を示す標本の中で、対掌関係にある食像形状を持つものがかなりの比率で存在した。
(1)の特徴は、「ドフィーネ双晶」(D双晶)として解釈される。対掌関係にある食像形状を含む水晶は「ブラジル双晶」(B双晶)として解釈される。そして (2)の特徴はこの2種の双晶を含むと解釈され、ゴールトは「ドフィーネ・ブラジル双晶」(D・B双晶)と呼んだ。

報告は二次大戦以来、水晶発振子の需要が興ったことにより、水晶の性能を落とす双晶について多くの研究が行われた時期のもので、先行研究についても概括し知見を援用している。
彼が結論したことは次の通りである。

・双晶した水晶は双晶を持たない単結晶よりはるかに一般的で、(完全な)単結晶はむしろ稀と考えられる。
・双晶のタイプとして一般的なのは貫入型(※ドフィーネ双晶、ブラジル双晶等)で、接触型(※日本双晶等)は稀である。
・ドフィーネ、ブラジル、ドフィーネ・ブラジル双晶の中では、ドフィーネ及びドフィーネ・ブラジル双晶が概して豊富に存在する。
・左手、右手水晶の存在比率は等分である。ブラジル双晶、ドフィーネ・ブラジル双晶においても、左右のどちらが優越しているかで判別すれば、やはり等分である。
・ドフィーネ双晶の境界は不規則であり、一方ブラジル双晶の境界はより結晶面に平行である。
・同じ産地の結晶で、出現頻度の低い面(※ s面や x面)が現れたものは、双晶の発達程度が低い。
 (※アーカンソー産の水晶について観察されている。)
・双晶のタイプ別の存在比率は産地によって大きく異なる。これは結晶成長の条件、地質環境条件の違いを反映しているに違いない。

計数値を比較すると、アーカンソー産 295点のうち、単結晶は 8%に過ぎなかった。双晶の 69%はドフィーネ双晶で、ドフィーネ・ブラジル双晶が24%、ブラジル双晶は 7%ほどだった。ところがペンシルバニア産では 347点のうち ドフィーネ・ブラジル双晶が 312点で全体の90%を占めていた。アラスカ産 111点はすべてが双晶だったが、単純なブラジル双晶は一つもなかった。ユタ州ティンティック産168点では 80%が単結晶であり、ドフィーネ・ブラジル双晶は一つもなかった。このように数値は産地によって大きく異なっており、上記の結論が必ずしも一般論とみなせないことは、付言しておいた方がよさそうである。

ゴールトは上記の他にも、大きな傾きをもった傾斜柱面(キャンドル状の晶癖)を持つ水晶は双晶を示す率が少ないこと、アーカンソー産の水晶では s面か x面か少なくとも一方が見られたことを指摘している。また食像の形状について、異なった試薬を使えば異なった形状の食像が生じるが、対掌性の判別には差支えないとも述べている。

さて、水晶の結晶構造と対掌性について No.941に概念図を示したが、一般的な水晶(低温石英)は三方晶系の特徴をもっており、対称操作として柱軸回りに120度回転すると(そして柱軸方向にシフトすると)構造が一致する。しかし180度(あるいは 60度)回転させた場合はもとの構造と異なる空間配置をとる。
ドフィーネ双晶(ドフィネー双晶)は周囲に対して 180度回転した構造を持った領域を含む双晶である。これにより、r面の領域に z面の領域が(その特徴が)現れるのだ。もちろんその逆もある。No.971の結晶図の錐面を記号 (r, z)で表記したのはこのため。ドフィーネ双晶には左手水晶と右手水晶とがある。
一方、ブラジル双晶は右手水晶の領域と左手水晶の領域とが混合した双晶である。混合しているが、r面の領域は r面であり、z面は z面として存在する。
そしてドフィーネ・ブラジル双晶は、r面の領域に対掌性の異なるz面の領域が、また z面の領域に対掌性の異なる r面の領域が現れた水晶である。(少なくともゴールトはそのように定義している。)

柱軸方向から俯瞰した錐面の図で示すと次のようになる。

上図は右手水晶のr面を桃色、z面を藤色で標識した単結晶の図である。同様に左手水晶の r面を草色、z面を卵色で標識する。双晶ではこれらが占める領域は下図のように交差し、混合する。

図中の回転矢印は対掌性が逆であることを示す

(1)は上図と同じ右手水晶の単結晶。(2)は右手水晶の一部が 180度(60度)回転した配置となったドフィーネ双晶である。
左手水晶にも同様のドフィーネ双晶がある。
(3)は左手水晶の単結晶。(4)は(1)と(3)との混合で、右手水晶の一部の領域が左手水晶で置き換えられた配置のブラジル双晶である。そしてこの左手水晶の領域が 180度回転した配置となって r面と z面とが入れ替わったのが (5)のドフィーネ・ブラジル双晶である。ゴールトの図に示されているのはこの様式。
双晶のバリエーションは理論的にいくらでも入れ子式に複雑化することが可能で、例えば(6)は (4)のブラジル双晶のうち、左手水晶の領域の一部分がドフィーネ双晶化した配置を示すものである。

ゴールトの観察によれば、多くの水晶は単結晶と同じ外観をしているが、実際には貫入型の双晶となっているわけであり、フッ酸処理によって食像を作って初めてそのことが判明するケースが大半だった。
一方 No.940で述べた通り、s面や x面の出現した水晶は、錐面(r面と z面)が識別出来れば、外観によって右手か左手かもまた判別することが出来る(というより、元来そのように定義されている)。
そして同様にこれらの面の配置によって、双晶であるかどうかも判別が可能であるのだ。

というわけで鉱物愛好家は、水晶の肩に微小面が現れていないか目を皿にして探し、微小面のある肩の隣の肩(60度回転した位置)、あるいは柱軸を挟んで対向する肩(180度回転した位置)にも微小面があれば、「(貫入)双晶だ!」と判断して、内心鬼の首でもとったような喜びを感じるのである。画像の標本はインドのクル谷産の水晶。
(続く⇒ No.973

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