971.水晶(ガーデン/ 結晶面) Garden Quartz and faces  (ブラジル産)

 

 

ガーデン・クオーツ(庭園水晶)
水晶の表面を、別種の鉱物(緑泥色など)がほぼ全面的に
覆いつつ、さらに水晶が成長してクリアな結晶面を形成したもの。
別種の鉱物の堆積中も水晶は同時的に成長していたと思しい。

上の画像から起こした結晶図
ベースになっている下部は大きな錐面で
その上に柱面が立ってから、また錐面が形成されている。
錐面(赤色丸標識)の内側に成長の遅れた領域が生じて、
トライゴン状の凹部を形成している。
トライゴンの内側を構成する3つの面は、
上部が柱面に平行、下部の左右がそれぞれ
隣接する錐面(茶色丸、鮭色丸)に平行な面。

上の画像の右側の隣接錐面(茶色丸)を正面に見せた画像
柱面の右肩には s面やs面の下に生じる斜め条線をもつ
微小面がみられる。
s面が柱軸回りに 60度回転した配置で続けて
現れているので、おそらくドフィーネ双晶であろう。

錐面の中央付近に生じた「埋め残し」凹部
内側は多角形状の面で構成されている

凹部周辺の拡大画像
ステップ式の面成長模様(等高線)が見られる。
凹部の周りで流線が乱れている。

右肩の斜め条線を持つ面を捉えた画像
水晶の条線は、普通は柱面に生じる水平線に
限られるが、時に局所に斜め条線が現れる。

s面と思しい領域に反射光を作った画像

その下に伸びる柱面に対する微傾斜面に反射光を作った画像

戻って、トライゴン状の凹部の上下に見られる
 s面に反射光を作った画像
上側の s面は、等価な錐面間にある段差(高低差)を埋める
階段面として存在していることが分かる。
ちなみに別の箇所では段差を埋めるのは柱面である。

破面。庭園をなす別種鉱物の薄層は、
表面から数ミリ下に存在している
そのわずかな厚みのクリアな水晶の層が
庭の景色に奥行きを感じさせる。

Qu 04のガーデン・クオーツ(庭園水晶)
正面の錐面に「埋め残し」の下向きトライゴン状凹部が見られる
左肩にカテドラル状の陥没があり、階段になった
錐面の反射光を捉えている。
右肩には変則的な輪郭をもった微小面(s面がベース)が現れている。
(Qu 04の画像では正面の柱面の左肩に反射光が見える)

トライゴン状凹部の拡大画像
内側の面は先の標本で説明したのと同じ構成。
右隣りの錐面に伸びている段差もまた柱面に平行な垂直面

肩の部分に比較的大きな凹部と、
その内側に凸部がある。
s面に反射光を作った画像

s面周辺の拡大画像
結晶全体からすると小さな凹凸部も
基本的に結晶面によって構成されていることが分かる 
先の標本で指摘したのと同様、等価な錐面の段差を
埋める存在として(上側の)s面が生じている例。

面の構成参考図

Qu 04の画像と同じ構図だが、柱面の凹凸を強調し、
かつ右肩に現れている斜め条線のある微小面に反射光を作った画像

斜め条線のある微小面周辺の拡大画像

 

鉱物学からみた水晶の理想形が両錐六角柱状であって、結晶面同士のなす角度は180度を超えない、すなわち凸部だけから構成されるはずのものであるとしても、私たち愛好家が現実にしばしば出会うのは、理想形が複合したかのような集合形であったり、均衡から外れた偏奇した形状であったり、凹部を持つ形状であったりする。

結晶面の基本は6つの錐面と6つの柱面であるとして、そのほかにさまざまな微小面や条線、成長模様成長丘食像、結晶同士の分離面(破面)が現れて、基本形だけでは理解のつかない様相を示すことが珍しくない。結晶の軸が互いに少しずれつつ統合されたかのようなマクロモザイクが観察できることもある。
そこで標本を手にとってつらつら眺め、この形状は何なのか、どういう性格の面なのか、どういう成長の(あるいは浸食の)仕方をしたのか、などと鉱物学の知見に照らしてあれこれ解釈を考えてみるのも、なかなかオツな時間の過ごし方であるな、と改めて思う今日この頃であります。
もっともおおよその時間は、ただただ眺めて、ええなー、キレーやなーと見惚れて、ぼーーーーと過ぎてしまうのが定石。つまるところ愛好家にとっての鉱物学は、石をもっと楽しむための調味料として視野に入ってくる。

さて、この標本はガーデン・クオーツと呼ばれるタイプの水晶で、そのココロは日本人の(おそらく外国人も)好きな「見立て」である。
西洋の自然哲学の伝統は、太陽や星々の世界と地上界との照応性、換言すれば霊魂と肉体との関係性を直感し、観想してきた。西洋が生んだ鉱物学や結晶学は、数学的な抽象思考による実験結果の解釈を以て、鉱物の肉眼的なあり方を、不可視の原子構造・分子構造に結びつける。
そして天と地との間にあって地を嗜好しつつ精神の飛翔を試みる私たち鉱物愛好家は、限りあるイマジネーションを以て、結晶という箱庭的ミクロコスモスの中にマクロコスモスを想起して親しむのである。
とはいえ、ここでは鉱物学的味付けの観察のみ、各画像の下に記して善しとしたい。

ガーデン・クオーツは、成長のある時期に大量の別種の鉱物が結晶面上に沈積ないし捕獲されることに特徴がある。あたかも完全に覆われてしまったかに見えるが、おそらくそうではなく、(ある時間帯をとれば)つねにどこかに水晶の露出した箇所が残っており、そこから沈積した別種鉱物を乗り越えて再び表面に水晶の層−整った結晶面が出現するのである。それは網戸を通して風が吹き抜けるようなもの、布地を通して水がしみ出してくるようなもの、と喩えていいかと思う。水晶は被覆された下地と同じ結晶軸/方位を維持して成長を続ける。
しかし完全に被覆された(いわば抜け穴のない)領域が広ければ、その上を新たに水晶が覆い尽くすまでには他の箇所よりも長い時間が必要となるだろう。

補記:錐面の標識を (r, z)としたのは、いずれの標本も外観的にドフィーネ双晶の特徴が認められるからで(ある錐面の両肩に s面が現れている)、 r面か z面かどちらの性質が優越しているか判断し難いからである(おそらく混合面)。

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