877.カルセドニー Chalcedony (インド産)

 

 

Chalcedony 玉髄 カルセドニー 

鍾乳状玉髄(カルセドニー) −インド、マハラシュトラ州ナシク産

 

二酸化珪素 SiO2 は地表面を構成するもっとも基本的な物質で、西インドのデカン高原の玄武岩地帯でも、石英(カルセドニー・水晶)の見られない採石場はまずない、といっていい。例外はロナバラとプーナ南西のパシャン・ヒルくらいという。
普通は玄武岩の晶洞や空隙に先ず潜晶質〜微晶質のカルセドニー(玉髄)が沈積/晶出し、その後に沸石や魚眼石といった種が生じているのが順である。カルセドニーの外側を数ミリ程度の微小な(自形)水晶が覆うことも多く、その後で見栄えのする大きな水晶や紫水晶が現れることもある。紫水晶の出る晶洞は、奇妙なことに(理由はよく分からないが)随伴するほかの鉱物種がまったくないか乏しい傾向が認められている。 No.875に記した Shirdi では紫水晶の晶脈上に載っているのはオーケン石と方解石くらいである。
No.443 はプーナ産と標識されているが、マラド−クラール地域に典型的な産状の標本で、No.876に示した濁沸石帯に出たもの。晶洞を白色不透明の濁沸石が縁取りし、その上を細かな自形水晶が覆っている。
石英類は、地表に流出した溶岩流が固化して玄武岩を生じたはるか後に、その空隙を伝って浸入した珪酸分に富む熱水から晶出するのがならいだが、 Chinchvad 産は例外的に溶岩流に含まれていた珪酸から生じたもので、後からの鉱化作用は起こらなかったとみられる。

画像はナシク(ナーシク)産のカルセドニー。樹枝のように氷柱のように白色鍾乳状に発達したものである。着床面に青灰色のもこもこしたカルセドニーがうずくまって見えるが、一般に見られるのはこのタイプで、晶洞の壁面を均質的に覆っている。ときに No.408 のように鍾乳状の核柱を均等に包んでいることもある。
しかしこの標本は、おそらく核のないところに選択的に成長し、細い柱となって林立したものである。空洞の同じ箇所に滴り落ちる水滴から、珪酸分が少しずつ沈積して次第に長く伸びたものと考えられる。従ってその成長方向は地球の重力線に一致するはずだ。この種のツララ状の成長は重力に従って上から下へ伸びてゆくのが普通で、着床面のように見える根本部分は実は滴下開始位置であることが多い。逆に下から上に伸びあがる場合は、滴下した雫が根本に向かって引かれるため、溶けた蝋燭のロウが裾に広がるように、筍めいたずんぐりモタモタした形状が現れやすい。
よく見ると、途中で柱が少しずつ曲がって逸れているものもあるが、上から下への場合は雫の流れる筋道が変わったり、柱が傾いたりといった状況が考えられる。下から上への場合は、@滴下から沈積までに少しタイムラグがあって、その間に重力に引かれて滑ったケースと、A滴下位置が少しずつずれたケースとがある、と考えると合点がいく。また空洞内は気体が満ちて、滴下した液体が水面下に潜って希釈されるといったことにはならなかっただろう(青灰色のカルセドニーの部分は水面下で沈積したかもしれない)。

ナシクはボンベイの北東 200キロほどの高原に位置する、ヒンズー教の寺院を擁する古い巡礼都市である。海抜はプーナと同程度(600m)だがずっと乾燥した気候で、植生は幾分乏しく、風化した奇妙な形状の丘が連なる。露出した玄武岩の層によって、地表を流れた溶岩の様子がよく分かるという。
20世紀の中頃まで鄙びた未開の土地だったが、将来の発展を見越して産業拠点として整備されたため人口が急増した。これに伴って石材需要が興り、周辺の玄武岩が盛んに採石されるようになった。そして晶洞に産する鉱物標本が我々の目に触れるようになった。縁は異なもの。風吹けば鉱物愛好家が喜ぶ。
私としては、ナシクといえばブドウ状の蛍石のイメージがある。Fg.58がその例。この標本ではカルセドニーの層の上に自形水晶の層が載っているのが明瞭。蛍石はさらにその上に載る。ただし、蛍石の周囲の石英層は標本の見栄えのために取り払われたようである。

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