| 1058.氷柱水晶 Quartz etched Icycle (パキスタン産) |






私も一応、収集家のはしくれであるので、収集家がどうしようもなく持っている、モノに執着する気持ちはそれなりに自覚している。自分としては他の人たちほど偏屈でないような気がするのだが、さほど鉱石趣味に漬かっていない方々から見ると、同じだそうである。なくて七癖とはよく言ったものだ。収集家はコレクションを秘蔵したい気持ちと人に見てもらいたい気持ちとがつねにせめぎ合っている。臨床心理家の河合隼雄は、人がなにかを決断するときは
49対 51で決めている、と仰られたが、これも至言と思う。
ただ私蔵していても死蔵しているだけだ、ということは分かっているので、こうしてサイトにちょびちょび上げてご覧いただいているが、一方でこれはまだとっておきたい、と思ったりすることもままあることなのだ。
…という葛藤を抱えつつ、話の成り行きからご紹介する標本。
49.8対 50.2くらいかな。
No.1056のアメトリンに似た形状の無色透明の水晶で、激しい溶食を受けた様子が窺えるもの。アイシクル(つらら:氷柱)と愛称されるタイプだ。透明度が高く、内部にほとんどキズがない高品質の結晶なので、光を受けて美しく輝いてみえる。元はあったと思しい安定成長時の錐面や柱面は概ね頻繁に繰り返される凹凸面に置き換わっている。凹凸面のいくつかは錐面や柱面と等価のようだが、その他にこれらとは異なる角度で傾斜した擬似面が多数生じている。
上記のアメトリンのページで、擬似 'π面や
ξ面が中立でなく一方に傾いていると述べたが、本標本では同様に柱面に対して旋回した擬似面が認められる。いくつかはいわゆる「肩の小面」(x面や
u面等)と等価と思われる。 No.1057で示した結晶面の分類で
7〜10に相当するタイプのようだ。
その昔、市川新松博士はフッ酸によって生じる水晶の食像を研究されたが(cf.No.968〜No.970)、長期間(
7週間)処理を続けると、元の柱面も錐面もすっかりなくなり、代わりに第二柱面で構成される六角柱や、三方晶的な旋回錐面、また頭部の平坦面(c面)が出現することを観察されている。cf.
No.970
思うに自然界でも同様の現象が起こっているのではないだろうか。この標本はそこまで極端でなく、元の面の面影を留めているのだが、第二柱面に相当する配置の旋回位置に、小さな細い擬似面(大傾斜面)の飛び石的な連なりが、確かに認められもするのだ。