1059.水晶(溶食・肩の小面を伴う) Etched Quartz (ブラジル産)

 

 

食像のある右手水晶(ドフィーネ式双晶) 
−ブラジル、ミナス・ゼラエス州産

肩の小面が多数現れている
(光を反射させた面)

溶食を受けて生じたらしい複雑な微小凹凸面で
構成される柱面と、肩の小面(光を反射させた面)

錐面に下向き三角形(トライゴーニック)がみられるが、
食像かどうかは定かでない。
cf. No.971 (トライゴン形)

結晶の内部に気泡の模様が見られる。
概ねある傾斜平面上に分布して、多数の棚面を作っている。

 

水晶において c面や 'π面はたいてい溶食作用を受けたと思しい結晶に現れて、その形跡のないものにはほとんど見られない面である。平滑面と見るにはあまりに粗い凹凸を留めていることがあり、その場合はむしろ擬似面と呼ぶべきかと思われる。cf.No.1055-No.1057 

一方で錐面や柱面は、溶食作用によって食像を生じている場合もあるが、あまり影響を受けていないように見えることが多い。錐面が溶食されているのに柱面にはその様子がほとんどなかったり、逆に錐面は平滑で柱面に食像が集中している場合もある。特定の錐面や柱面にのみ食像が明瞭で、他の面はほぼ平滑な場合もある。
私たちが観察出来るのは最終的な形態だけで、その形から推測を逞しくするほかないが、おそらく、溶食で生じた凹凸面のあるものはその後の面成長過程を経て再び平滑な面に戻るが、別のものは疑似面・食像面として留まる。あるいは一つの広い結晶面だった領域が、複数の小さな平滑面に分割される。あるいは元はなかった別の指数の面が出現する、といった複雑な現象が起こるように思われる。結晶面の成長と溶食作用とは時期的に交替しつつ発生することもあれば、並行的に進行する場合もあると思しい。

No.1058の氷柱水晶は激しい溶食作用の形跡をそのまま留めて、その後の再成長(平滑面の再生)はあまり起らなかった個体であろう。全体の姿形から判断すると、溶食を受ける前にはよく整った錐面や広い柱面(大傾斜面)に囲まれていたのではないだろうか。それが無数の小さな凹凸面に変化したわけで、錐面や柱面、また肩の小面(s, x, u面…)に等価な面が多数見られるが、肩の小面は元は存在しなかった可能性が考えられる。つまり、錐面と柱面とで構成された単純な形の結晶が溶食作用によって新たに肩の小面を随所に帯びるに至る、というプロセスが起りうるのではないだろうか。

この推測を支持しているように思われるのが、本ページの標本である。
頭部に二つの錐面が並んだ、いわゆる「タントリックツイン」で、(画像では判りにくいが) 一方の r面と他方の r面とが正対して接合した形になっており、相対的に柱軸回りに 180度回転した繋がり方、ドフィーネ式双晶の形態である。
錐面はほぼ平滑面だが、一つの面に逆三角形の窪み(トライゴン)がある。溶食で生じた可能性もあるが、マクロモザイク構造のアヤであるかもしれない(多分後者)。

(元の)柱面は全体的に溶食の痕跡が明瞭で、カテドラル状の階段面や凹部が連なっている。比較的広い平滑面と細かな凹凸の残る擬似面とが併存している。面間の稜線は明瞭だが角張っておらず、糸面を取ったように丸みを帯びていたり、第二柱面に発展しそうな擬似面が出来ている。
そして私が注目したいのは、柱面の上から下まで全体的に x面相当の肩の小面が見られることだ。通常、このタイプの面は単晶形では頭部の錐面と柱面との間の「肩」にのみあるもので、結晶が成長して柱面が伸びると、以前の小面の位置は伸長方向に移動すると考えられる(肩より下の部分に残らない)。ところがこの標本では(元の)柱面の凹凸部各所に高い確率で観察される。またその平滑度は、近接する微小な錐面や柱面とほぼ同等であるので、いったん生じた細かな凹凸面が、面成長プロセスによってこれら平滑面として共時的に再構成されたと推測したいのだ。

さらに言うと、肩の小面が溶食後の平滑面再構成時に現れやすいのであれば、通常の肩の位置に現れる小面もまた、成長と縮退(溶失)のプロセスが平衡状態に近い過飽和度からの動的なゆらぎによって双方向的に(総体としては成長方向に)進行する場合に生じやすい、と考えることも出来るのではないだろうか。

No.970に市川博士が観察した稜線上に生じる溝の配置図を示したが、この溝(溶食部)は左手水晶においては、頭部の r面と r面との間の稜線、次いで r面とその左手にくる z面との間の稜線、そして肩の小面を下った配置の柱面間の稜線部(第二柱面)にあることが分かる(右手水晶では対掌位置)。肩の小面を含むこの一連のラインは、一般に溶食作用に脆弱な構造線なのだと考えられる。
s面や x面等の肩の小面は脆弱な部位(成長時には成長の素早い領域)に危ういバランスを抱えたまま成立した平滑面と言えるのではないか(従って出現頻度は相対的に低い)。

 

補記:複数の肩の小面が現れる現象は、単晶形がマクロモザイク構造で形成されることによっても生じうるが、その場合は通常柱軸方向のある特定の高さ位置で生じる。cf. No.967No.1029(ゼイゴ状の肩の小面の連鎖)、No.1032

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