137.ストレング石   Strengite   (USA産)

 

 

ちっちゃなイガイガ。触ってみたいですか?

ストレング石−USA,アラバマ州、インディアン山産

ストレング石(淡桃色)とキドウェル石(淡オリーブ色)
−USA,アラバマ州、インディアン山産

ほわほわ。 撫でてみたいですか?

ストレング石−スウェーデン、スワッパバーラ、レバニエミ鉱山産

 

上の写真は、軟マンガン鉱(右上、ねずみ色)上に結晶したストレング石。淡い赤紫色は、微量のマンガンを含むためとされている。花が咲くよう。

アラバマ州チェロキー郡のインディアン山には、変成作用を受けた燐酸ペグマタイトがあり、94年頃、断層線鉱区と呼ばれる場所から、本鉱、キドウエル石、ロックブリッジ石ベラウン石など各種の燐酸塩鉱物が産出した。そのうちストレング石は、美しい剣状結晶が球顆状に集合し、スウェーデンのスワッパバーラで採れた名品を偲ばせて、ひとしきり話題となった。

これらの標本を採集したのは、地元鉱物商のゴードン氏らだった。氏は地質学者でもあり、標本を売ってしっかり稼ぐ一方、産地に関する詳しいレポートを学界に提出している。
自分の職業に誇りを持ち、専門分野の学位を取得する人はアメリカでは珍しくない。学位を持っている人が、その分野の専門職に就くのも当然の成り行きだ。学者さんが、自分の研究成果をビジネスに結びつける手腕は、企業家顔負けである。産学一体とはこういうことを言うのだろう。

下の写真は、スウェーデン産のストレング石 (cf.No.433)。アラバマ産よりやや球顆が大きく、綿帽子みたいで可愛い。

cf.308 フォスフォシデライト (ストレング石の単斜晶系同質異像)

 

追記:アパラチア山系ワイズナー山脈に属するインディアン山はジョージア州との州境にあり、山稜はオークやヒッコリー(クルミ科の一種)、パインなどの樹木に覆い尽くされている。森林を抜き出て険しい尾根筋と山頂の岩肌が顔を覗かせる。1800年代中頃から鉄鉱石(主に褐鉄鉱と赤鉄鉱)が採掘され、マンガンを含む良質の鉄が得られた。あちこちに露天掘りの跡が残っている。

地質は古生代の堆積岩(珪岩、砂岩、頁岩、苦灰岩等の礫質集塊)からなり、激しい褶曲や断層作用を経ている。燐酸塩鉱物は鉄鉱床の酸化帯に伴って生じており、酸化鉄類にマンガンや燐分に富む鉱水が作用して、針鉄鉱や破砕岩上に二次生成したとみられる。複数の種がぶどう状・球顆状の縞層をなして重なることから、ゲル状の鉱水から(多くの水分を取り込みつつ)晶出したようである。球顆は内側からロックブリッジ石 (Fe2+,Mn)Fe+34(PO4)3(OH)5、デュフレノイ石 Fe+2Fe+34(PO4)3(OH)5・2H2O、ベラウン石 Fe+2Fe+35(PO4)4(OH)5・4H2O、キドウェル石 NaFe9(PO4)6(OH)10・5H2O の順で年輪模様を作ることが多い。この場合、水和の程度が次第に高くなる傾向があり、キドウェル石は晩期生成物と見做すことが出来る。
一方ストレング石 FePO4・2H2O はさらに遅れてキドウェル石の外側に生じることもあれば(2番目の画像参照)、逆にストレング石上にキドウェル石が載っていることもある。生成順には幾らかの循環性(変動性)があるようだ。

インディアン山の燐酸塩鉱物の中でストレング石はもっとも魅力的な標本で、淡赤紫色の美しい色と自形結晶の放射集合形を見せてくれる。採集エリアは両州に跨って山地のあちこちに点在しており、1960年代頃からコレクターが集まりはじめ、1970年代後半に美晶標本が出て有名産地となった。

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