156.輝水鉛鉱  Molybdenite  (オーストラリア産)

 

 

へき開面。六角の結晶形がなんとなく分かる。

輝水鉛鉱−豪州、ディンブラ、ウォルフラム・キャンプ産

 

モリブデンはギリシャ語で鉛(モリブドス)の意味。もともと鉛の鉱石、特に方鉛鉱を指す言葉だったが、後に石墨や本鉱(結晶質の両者は案外よく似ている)を含めた鉛色鉱石の総称になった。
1778年、スウェーデンのシェーレ(No.154参)は輝水鉛鉱からモリブデン土(酸化モリブデン)を取り出した。さらに1781年、彼の示唆を受けた友人のイエルムが、モリブデン土を炭素で還元して金属を単離し、新元素としてモリブデナムと命名した。日本ではこれをモリブデンと呼んでいる。

輝水鉛鉱はへき開のはっきりした鉱物で、写真左(上)は、そのへき開面。雲母のように薄く剥がれる。とても柔らかいが砕けやすい。右側の暗色部は鉄重石(ウォルフラマイト)の脈。右(下)の写真は、へき開面と平行な方向から結晶を見ている。流線が連なっているが、その一本一本で結晶がぺりぺりと割れてゆくはずである。

本鉱はモリブデンの主要鉱石。地球上の比較的広い範囲に分布する。なかでも米国コロラド州のクライマックス鉱山は有名で、モリブデンの世界総生産量の半分以上がここから供給されている。同州にはモリブデン鉱山が多く、一帯の牧草地にもその影響が見られる。牧草1Kgあたり通常なら3〜5mg程度含まれるモリブデンが、この地方では20〜100mgに及ぶのだ。そのため牧草を食べる牛が、モリブデノーシスという病気に罹ることがある。モリブデンは生体必須元素だが、摂り過ぎはやはり体に悪い。

追記:標本の産地のウォルフラム・キャンプは20世紀に入る頃から1980年代にかけて稼働した小規模な鉱山で、タングステン、モリブデン、ビスマスを採った。
オーストラリアでは、ニューサースウェールズ州にキングズ・ゲートという大きな鉱山があって、1880年頃から1960年代にかけて巨大な石英パイプに伴う同様の金属類を大規模に採掘した歴史がある。12cm大に及ぶ形の整った輝水鉛鉱の結晶標本を出した。初期には専らビスマス鉱を掘ってモリブデン鉱を採掘対象としなかったため、古い廃坑にはまだ輝水鉛鉱の良晶が残っていると噂される。ウォルフラム・キャンプの産状はキングズ・ゲートに似るが、出回った標本はずっと少ないようである。 cf. No.90 (ウォルフラムの語源) No.814 (元素タングステンの発見史) (2020.12.29)

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