186.ビクスビ鉱  Bixbyite & Pseudobrookite  (USA産)

 

 

ビクスビ鉱(左)と擬板チタン石(右) 
−USA、ユタ州、トーマスレンジ産

 

コロンビア産のエメラルド標本は母岩に結晶を接着したものが多いというので、良心的な標本店さんが時々注意を促している。以前、新宿ショーのパンフにも断り書きがあった。南アフリカのダイヤモンドやニューヨークのハーキマー水晶も同様だ。ところで、本品も古典的な接着標本のひとつなのだが、全然気にされる様子がない。仕上がりが完璧だから、問題ないのであろうか。

母岩である珪酸質の流紋岩(リョーライト)は、火山活動によって生じた、崩れやすい軽石風の岩石だ。トーマスレンジを含むユタ州南部に広く分布しており、火山ガスが抜けた後に、トパーズや緑柱石、本鉱など各種の珍しい鉱物を生成していることで知られる。この流紋岩の表面を少し穿っておいて、ビクスビ鉱やトパーズの結晶を挿し、削りカスを詰めて酸で処理すると、あーら不思議、ご覧のような魅力的な標本が出来上るのだ。
すべてが接着品というのではないが、ビクスビ鉱と擬板チタン石が都合よく並んだ標本は、たいていアタリだという。

ビクスビ鉱(写真上部の黒色)は、1890年代に、ソルトレイク・シティの鉱夫で鉱物コレクターでもあったメイナード・ビクスビー(Bixby)によって発見された。彼はシェリー色のトパーズと共に、光輝の強いメタリックなサイコロ状の結晶をいくつも採集したのだが、正体が分からないので、友人の標本商A.E.フートに預けた。これをフートがイエール大学のペンフィールド博士に見せたところ、新鉱物であることが分かり、1897年にBixbyite(ビクスビアイト)の名が贈られた。比較的珍しいマンガン酸化物(三二酸化マンガン)で、結晶構造上、マンガンの一部が鉄に置き換わることもあるが、本産地のものはほぼ純粋なマンガン組成となっている。
ビクスビーはその後、同じ産地(トーマスレンジ)で、赤い緑柱石を発見する幸運にも恵まれた。

さらに後日−というか数十年後−、ここから宝石質の素晴らしいトパーズの巨晶が発見されるのだが、長くなるのでこの話は次のページに。

写真下部の柱状結晶は、擬板チタン石。鉄とチタンの酸化物で、かつて板チタン石と間違えられたため、その名がある。通常は板状の結晶だが、本産地では柱状を示す。理想組成は Fe3+2TiO5 。純粋なものは単斜晶系だが合成物でしか知られておらず、天然物はたいていTiO2が過剰に含まれ、斜方晶系に属するという。月面の岩石から発見されたArmalcolite アーマルコ石は、マグネシウムを含む擬板チタン石系の仲間である。(その名は、アームストロング、オルドリン、コリンズの3宇宙飛行士に因む。アームオルコリ石と訳すべきか。)

追記:ビクスビ鉱はブラウン鉱と組成・原子配列が近く、自形のない塊状のものは肉眼的に区別がつかないという。産状は流紋岩中のほか、変成層状マンガン鉱床に伴うものもある。

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