190.エメラルド5  Emerald (各地産)

 

 

−南アフリカ、トランスバール(リンポポ)、
グレイブロット鉱山コブラ坑産

−マダガスカル産

−パキスタン、北西辺境部 スワット谷産
この産地では短柱状の結晶が多い。
母岩の風化が進んで滑石中に埋もれたものも産する。

-ナミビア産

(グリーンベリル) 
−ベトナム、イェン・バイ県、ルック・イェン(イェン・ヤン)、ミン・ティエン鉱山産

 

いろいろな産地のエメラルドの標本を眺めていると、たいてい金雲母(片岩)を伴っていることに気がつく(No.121〜123、189も参照)。しかし、その成因は産地によって少しづつ違っているらしい。
No.122で簡単に触れたが、成分となるベリリウムとクロムがどのようにして出会ったかがミソ。日経サイエンス2001年5月号の特集に拠れば、大きく分けて次の4つケースがあるという。

1)塩基性の蛇紋岩に花崗岩質のマグマが貫入してエメラルドを晶出するケース。
貫入したマグマが冷えて固まってゆく時、ペグマタイトが形成される。一方マグマから分離した熱水が、ペグマタイトと蛇紋岩の接触部に沿って流れる。熱水は、それぞれの岩脈からクロムやベリリウムなどを溶かし出し、ペグマタイトを長石岩に、蛇紋岩を金雲母片岩に変成する。その結果、変成岩中にエメラルドの結晶が生じる。もっともポピュラーな産状。
ブラジルのカルナイバ鉱山がその代表で、ザンビア、ジンバブエ、オーストラリア、ロシアの鉱山もこのタイプ。
カザフスタンのデルベゲティ鉱山では、花崗岩質マグマが堆積岩に貫入することにより、同様の変成作用が起こった。エメラルドは、花崗岩マグマから生じた石英とグライゼン(石英・白雲母)の脈中に晶出している。

2)大陸地殻の下層に深い断層があり、深部を流れるベリリウムを含む流体が地表近くまで上昇する際に、滑石片岩などの塩基性岩からクロムを得て、エメラルドを晶出するケース。塩基性岩は、金雲母質の岩石に変成されることが多い。ブラジルのサンタ・テレジンハ・デ・ゴイアス鉱山がその典型。
エジプトのウンカボ鉱山、マダガスカルのラナペラ鉱山、パキスタンのスワット=ミンゴラ鉱山も同様で、深層流体の上昇を享け、石英とドロマイトを含む母岩中の石英の脈や、金雲母岩中の石英脈にエメラルドが晶出する。

3)造山活動によって、蛇紋岩と酸性岩(白雲母とガーネットの結晶片岩など)が接触し、金雲母片岩が形成され、その中にエメラルドが結晶するケース。オーストリア・ハーバッハタールの鉱山が、それ。エジプト・ザバラのスキアイト鉱山、オーストラリアのプーナ鉱山、南アフリカのグラブロット鉱山も然り。

4)方解石脈中の晶洞に結晶するケース。コロンビア産がこのタイプ。No.122で紹介。

以上のうち、1)〜3)までが変成作用によってエメラルドを生じるのであり、結果的に金雲母(片岩)を伴うことが多い。しかし、その拠って来るところはそれぞれお家の事情があるというわけ。

このページの標本5点はどれも好みだが、ナミビア産は特に気に入っている。出会ったのは、イーダー・オーバーシュタインの、とある丘の上にあった宝石店。ガラスケースの最上段に、ライトアップして飾られていた。初めて見た時のときめきは、今も胸に鮮やか。

※ナミビア産の標本は、ナミビアにエメラルドは出ないとの情報により、当初産状の似たブラジル産?と書いていましたが、アップ直後に「空想の宝石・結晶博物館」さんから、
「1992年にUSAKOSの近く、Maltahoehe地方、Neuhof農場から10kmの地点で、クロム着色の美しいエメラルドが発見された。地質はアマゾナイト−ペグマタイト脈と緑色片岩の接触変成鉱床で、石英、黒雲母、クロライト、角閃石、白雲母、滑石片岩を伴う」(ExtraLapis誌No.2 エメラルド特集号)とご教示いただき、修正しました。それまで、長らく産地不明扱いしていましたが、ラベルが正しかったことが分かって、とてもうれしいです。ありがとうございます。

※ベトナム産の標本を追加しました(2008.1 産地は以前からルビー鉱山で知られたイェン・バイにあるようです。

追記:画像の各産地について付言。
南アフリカ産。グレイブロット鉱山の名で知られるエメラルド鉱山で 1927年に発見された。巨大な露天掘り坑から 3cmに達する結晶が出る。時にかなり品質の良いものがあるそうだが、たいていは不透明。ペグマタイトに隣接する黒雲母片岩中の産状。コブラ鉱山またはコブラ坑(pit)と呼ばれるのはこの鉱山の一部で、1980年代半ばに標本の出回った時期があったそうだ。

マダガスカル産。同島にベリルの産地は数多いが、エメラルドは東岸のフィアナランツォア県マナンジャリー周辺が有名。ラクロワが 1913年に産出を報告しているらしい。アンボディバコリ近くの沖積土層では 1960年代に産出が知られ、70年代半ばから採掘された。初生鉱床にあたる金雲母片岩鉱床は1978年に発見されたが、含有物が多いため宝石質のものは乏しい。
1980年代(1983-1990)にはマラフェノ鉱山という露天掘り坑が成功し、数千人の鉱夫がエメラルドを掘った。このエリアには「エメラルド・サブタイプ」のペグマタイトが分布しており、小さなエメラルド鉱山が数多く存在するという。

パキスタン産。国内にいくつかの産地があるが、スワット川の峡谷にあるミンゴラ鉱山が最大かつ品質も最良という。1958年に発見され、谷沿い1km の範囲にいくつかの支山が開かれている。最初のヤマは 1997年に閉山。発色要因はクロムと鉄でマンガン成分も多く含まれる。母岩は「マグネサイト-滑石-石英の片岩」、「滑石-緑泥石-ドロマイトの片岩」、「緑泥石片岩」、「レンズ状石英脈」、「マグネサイト-菱鉄鉱-方解石-石英の片岩」など。
(2020.5.4)

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