204.曹長石   Albite  (ブラジル産)

 

 

アルバイト var. クリーブランダイト
−ブラジル、MG州サン・ホセ・ダ・サフィラ、ラブラ・ド・ペデルネイラ産
アルバイトはラテン語の Albus (白)に因み、ガーンとベルツェリウスが命名(1815)

 

暑い日だった。江戸城のお堀の内にある公共施設で開かれた即売会だった。初めて来た場所で、知らない人ばかりで緊張していた。
そんな時、この標本を手にしていると、ある人が、「わあ、涼しそうな石だね〜。夏向きだね。」と声をかけてくれた。ふと肩の力が抜けた。

夏が来るたび、その日のことを思い出す。標本を手にするたび、爽やかな風が吹き抜けてゆく気がする。

 

補記:曹長石はマグマからの直接生成はないとみられている。葉片状のものは花崗岩ペグマタイトに特徴的で、クリーブランド石 cleavelandite の名(変種名)で参照される。希元素を伴うことが多い。ふつう本体よりも晩期に生成されて、既存の長石に熱水が作用してこれを置換して生じるとされる。花崗岩ペグマタイトで希元素鉱物を伴う斜長石の類は曹長石成分が多いもの(曹長石、灰曹長石)で、これより灰長石成分に富むもの(中性長石(アンデシン)〜)では、頻度がぐんと落ちるといわれる。日本では中性長石と共産する希元素鉱物は褐れん石が多く、ジルコンが次ぐ。

追記:ラブラ・ド・ペデルネイラのラブラはポルトガル語で仕事・作業場の意、つまりペデルネイラ鉱山。1980年代末から美しいトルマリン(エルバイト)の巨晶を産し、ブラジル有数のペグマタイトの一つと目されている。透明度の高い刃状〜葉片状の曹長石が花弁のように集合した巨大標本も目玉品のひとつ。
しばしばクリーブランダイトと標識されるが、現在では亜種・変種とされる名称が長石には多数あってややこしく、私は長い間、米国クリーブランド産に因んで、なにか特別な成分系のものをこう呼ぶのだと思っていた(日本語の鉱物書で言及しているものは少ない)。

18世紀にフェルドスパー、白色ショール等と呼ばれていた長石類のうち、ナトリウム(ソーダ)を主成分とする白色のものをアルバイト(曹長石) Albite (白石の意)としたのはガーンとベルセリウスで 1815年のことだった。ブライトハウプトはテトラティン Tetratin と呼んだ(1823年)。四角柱状の形に拠ったと思われる。ブライトハウプトはまた板状に結晶した長石をペリクリン Pericline としたが(1823年)、これは b軸方向に長く伸び r面の現れた結晶形で、ギリシャ語で「すべての側面に傾斜がある」意という。今日では b軸を双晶軸とする「ペリクリン双晶」に名が残っている(※アルバイト双晶と共に三斜晶系に特有 cf. No.430。1826年には「小さく割れる」の意でオリゴクレース Oligoclase を示した。その長石にはアルバイトのような完全なへき開がない、と考えたためだ(後の灰曹長石)。
プラジオクレース(斜長石) Plagioclase の名も彼により、へき開面が直角よりわずかに斜め(はす)に交わることを示した(1847年)。三斜晶系の長石種のグループ名として馴染まれたが、今は用いられない。

同じ頃、H.J.ブルックは米国チェスターフィールド産の(曹)長石をクリーブランド石とした。メーン州ボードウィン大学の P.クリーブランド(1780-1858)に献名したものだが(1825年)、従前 J.F.L.ハウスマンはキーゼルスパーと呼んでいた(1815年)。
1843年、T.トムソンはカナダのオンタリオやケベックに見られるイリデッセンス(シーン)効果のある(曹)長石をペリステライト Peristerite と呼んだ。その光学効果を鳩の羽の青い光彩に擬え、ギリシャ語の鳩(ペリステラ)に因んだもの。
これらはいずれも曹長石の一名と言って差し支えないのだろうが、種名としては結局アルバイトが残った。ペリステライトは美しいシーン(ムーンストーン効果)を愛でて宝石に用いられることがあり、宝石名に残っている。ピジョン・ストーン、カナダ・ムーンストーンの別称がある。

ちなみに、オルソクレース(正長石/カリ長石) Orthoclase はへき開面が直角に交わることからブライトハウプトが名づけたもので(1823年/ 1801年にアウイがオルトース Orthose と)、アノーソクレース Anorthoclase は 正長石に似ることから 1886年に H.ローゼンブッシュがつけた。アンデシン(中性長石) Andesine はアンデス山脈に因って 1841年に W.H.アビクが、ラブラドライト Labradorite はカナダのラブラドル地方に因って 1780年に A.G.ウェルナーが、バイタウナイト(亜灰長石) Bytownite はカナダのバイタウン(現オタワ)に因って 1835年に T.トムソンが、アノーサイト(灰長石) Anorthite は三斜晶系の特徴で面の交差が真っ直ぐでない (アノルトス)ことから 1823年に G.ローゼがつけた。
これらの名称は後に成分系と関連づけられて、No.432 の表に示した長石類の分類名称となった。
またオルソクレースと同じカリ長石の種で、サニジン Sanidine はタブレット状の結晶形からギリシャ語のサニスに因り 1808年に K.W.ノーゼが、三斜晶系の微斜長石 Microcline はプラジオクレースと同様の理由−へき開面の交差角が直角に僅かに足りないことから 1830年にブライトハウプトがつけた。

クリーブランダイトに話を戻すと、midat の記事によれば、20世紀前半にはアルバイト/曹長石とはやや異なる性質の三斜晶系のものと考える説があったようだ。
チェスターフィールド産(原産地)のクリーブランダイドを研究したフィッシャーは、「(010)面に平行な面が発達した薄板状の結晶が、板同士捩れた形に集合したもの」で「ほかに明瞭な結晶面が見られず、アルバイト双晶しているもの」に限ってそう呼ぶことを提案したが(1968年)、そうするとたいていの「クリーブランダイト」標本はこの定義にあてはまらないという。
一般には、花崗岩ペグマタイトの晶洞に産する葉片状に集合した透明感のある曹長石をその名で呼ぶ。(2020.5.6)

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