ウィーン旧市街を取り巻くリング(かつての市壁を取り壊した跡につくられた環状道路)の南外縁に配置された、
美術史博物館と対をなす博物館です。収蔵品の核は 1750年に神聖ローマ皇帝フランツ一世(1708-1765)が
購入した3万点の博物標本。もとはフィレンツェの博物学者ジャン・フォン・バイユー(1679-1758)の蒐集品で、
欧州各国の王侯・貴族が「驚異の部屋(ヴンダーカンマー)」を競う中、当時、最大級の博物コレクション
(化石・貝類・珊瑚類・鉱物・宝石類など)と目されていたものです。
フランツ一世は博物蒐集に凝った王侯で、欲しい標本があると湯水のごとく大金をはたいたそうです。
彼は夏宮シェーンブルンに動物園や植物園を作り、1755年には南米に学術調査団を送り込んで、
大量の標本や動植物を獲得しました。彼の死後、妻マリア・テレジア(1717-1780)は博物館を創設して
コレクションを国に委ね、やがて一般に公開される運びとなりました。
マリア自身に博物趣味はありませんでしたが、オーストリア女大公として富の源泉となる鉱山・鉱物に関心を
抱いていました。彼女は 1776年、ハンガリーの著名な鉱物・冶金学者イグナチウス・フォン・ボルン(1742-1791)を
ウィーンに招へいしました。ボルンは冶金技術に新風をもたらす一方、設立された帝国自然史博物館の
コレクション拡充に努めました。その結果、神聖ローマ帝国の版図(オーストリアやハンガリーなど)に産する
鉱物標本はきわめて充実したものとなりました。またドイツやロシア、英国、イタリアなどの古典標本も見事な
品揃えとなっています。ちなみにボルンの名は斑銅鉱(Bornite)
に残っています。 cf.No.730
ナギャグ鉱
その後も18世紀後半から19世紀にかけて、世界各地へ派遣された科学調査団の収集品が
加えられてゆき、今日では約3,000万点の収蔵品を持つ世界有数の博物館となっています。
鉱物学・岩石学関連の品は約15万点、このうち2万点強が公開展示されているそうです。
鉱物標本のキャビネット
系統分類というけれど、かなりの充実ぶりです。
◆欧州圏の標本を中心に紹介しましょう。さすがに伝統の強みを感じさせます。
自然金 −ジーゲンビュルゲン、ウォロス・パタク産
自然金 −ボヘミア、ユーレ(イーロヴェ)産
こういうのは葉状金鉱というのかな。
プラハから南に20kmほどの土地で、1970年代まで金山が稼行していました。
自然鉄 −ドイツ、カッセル、Buhl産
珍しい地球起源の鉄です。 cf. No.92
自然鉄 −グリーンランド、オビファク産
こちらも地球起源の鉄
あられ石 山サンゴ
オーストリアの銘柄標本。 cf. ヨアネウム3 鉄の花
辰砂 −旧ユーゴスラビア、イドリア産
世界で2番目に古い水銀鉱山のもの。 cf. No.662
石膏 −ポーランド、イノヴロツワフ(ホーエンザルツァ)産
岩塩坑で知られる町です。大公マリア・テレジア/皇帝フランツ一世の時代、ポーランドの
シレジア(シレージエン)地方はプロイセンに奪われ、奪回を期するオーストリアとの
間で数次にわたる戦争が戦われました。しかしシレジアはプロイセン領に留まりました。
岩塩
−ポーランド、ガリツィア西部、 ヴィエリチカ岩塩坑産
ヴィエリチカは11世紀に始まった巨大な岩塩鉱山で、世界遺産に登録されています。
地底327mの深みに至る坑道は延長300kmに及び、坑道の一部が観光客向けに公開されています。
ヘッス鉱 −ジーベンビュルゲン、botes
産
かなり見事な結晶標本と思います。てか、ほとんどありえない。
cf. No.218
ナギャグ鉱 −ナジャーグ産
トランシルバニアの黒色葉状金鉱。
ナジャーグではマリア・テレジア大公の
時代に金山が開発されました。 cf. No.730
オパール −ハンガリー(現スロバキア)、チェルノウィッツ産
いわゆる「ハンガリアン・オパール」。18世紀には盛んに採掘されており、
貴重な収入源となっていました。ブラック・タイプがあったとは知らなんだ。
cf. No.417
フィレンツェの特産工芸品だった石モザイク画
いわゆる「ピエトラ・デューラ(永遠の絵)」
cf. 孔雀石の話2
ロードクロサイト −ドイツ、ヴィッセン・アム・デア・ジーク産
私は菱マンガン鉱の独特のピンク赤色にいつも参ってしまいます。
見惚れて飽きません。 cf. No.613
菱鉄鉱 −ボヘミア、ナダブラ産
苦灰石に共通する鞍形(「く」の字型)の湾曲集合結晶です。
cf. No.723
シルビン(シルヴァイト) −ドイツ、シュタッスフルト産
古い岩塩生産地に出たもの。シルビンの結晶標本は昔から私の憧れ。
なかなか手に入らないけどねえ。 cf. No.292
チンワルド雲母と鉄水晶 −チンワルド産
手元に良品を持っていないので、ちょうどいいから紹介します。
cf. No. 816
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