C19.翡翠腕輪 Jade bangle |
この性質は清国で19世紀来流行した翡翠玉(ジェーダイト)にないもので、磨いた翡翠はむしろガラスのような冷たい硬質の光と触感を具えている。今日の中国で透明度の高い翡翠玉を玻璃種(ガラス質)、氷種などと呼ぶのはその故で、また白地に翠色の混じるものを雪中の苔と描写するのも、特有のクールさを感じとってのことと思われる。(C17
翡翠、ひま話 ひすいの話6)
俗に翡翠を見分けるコツとして、玉を唇に当ててみて冷たく感じればホンモノという説も流布している。
翡翠玉のよさは透き通った鮮やかな翠色の美しさにあり、透明感には水気に満ちた瑞々しさを、翠色には若さへの回帰・生命力を象徴する新緑の芽吹きを感覚するのである。こうして彼らはいずれの玉にも充実した健康な生のあり方を見ている。
西方の聖書世界に擬えてみれば、白玉の愛好は祭壇に牡牛を祀って香煙を天に捧げ、焼いた肉や脂を御相伴に燔祭した旧約時代の、翡翠玉の愛好はキリストの贖いによる永遠の生を約束する荘厳なミサ、緑色の聖杯に満たされた生命の水を求める新約時代の、生命観と儀礼とに裏打ちされているといえよう。
画像は現代中国で量産されるタイプの翡翠玉の加工品で、龍をデザインした腕環である。西方世界では自らの尾を呑む蛇(龍)が円環をなすウロボロス
Ouroboros
が有名だが、中国でも古代紅山文化圏に体をC形に丸めた猪龍の玉器があり、周代には己れの尾を銜えた龍形玉佩が作られている。
ウロボロスは二匹の龍が互いの尾を銜えたタイプもあるが、中国の龍も同様である。一般に対(双)の動物紋は吉祥で、玉璧(中空の環)を挟んで二匹の龍が向かい合うデザインもある。
台湾の国立故宮博物院には、口を開けた二匹の龍が向い合って丸い玉を挟んでいる清代の翠玉腕輪が収蔵されている。(cf.
「山河の宝もの」 p.10に写真がある。)
画像の玉はこれと同工のものだが、彫刻ははるかにテキトーである。
素材はジェーダイト(ひすい輝石)で間違いないと思うが、おそらく樹脂含浸・染色処理を施したカテゴリーCの加工品であろう。(※無処理品はカテゴリーA。)
紫外線ランプを当てると、不自然な斑模様の(淡色部やクラック箇所で明るい)青白色の蛍光を発する。