251.トルコ石 Turquoise (USA産) |
ずいぶん、昔の話だけれど…
「SPSさん! トルコ石の結晶って知ってますか!?」
アポもなく、ふらり立ち寄った標本店。顔を見るなり店主が興奮気味に話しかけてきた。
「えっ、そんなものあるの。見せて、見せて!」
アツくなって同じセリフを二度繰り返す私。早速、ごはいけ〜ん(拝見)。
こんなものがあるんだね〜。不思議だね〜。共につぶやき、魂吸われて放心した。
店主「珍しいでしょう、ねっ、ねっ?」、私「うん、うん」、「売れますかね」、「うん、うん」、「いくらぐらいでしょう」、「さあ、初めてみるし…」、「○○円で売ろうと思うんですが?」、「う〜ん?」、「高いですか?」、「う〜ん」(←静かにしてゆっくり石を見せてほしい…)
「綺麗ですよね」、「そりゃあ、もう」、「ふふふ」(店主、含み笑い)、「ふふふ」(つられ笑い)
…こういう未知の、あるとも想像しなかった標本に出会ったとき、鉱物愛好家と標本商はラチもなく、むやみとうれしいものである。
トルコ石の結晶は、USAのリンチ・ST(永らく世界唯一の産地と言われてきた)を最右翼に、No.110(燐銅鉱)のMt.オキサイド、イギリスのバニー鉱山やストウ鉱山など、いくつかの鉱山で見つかっている。鉱物である限り、結晶するのは当然で、事実多くの本に、「トルコ石は銅の燐酸塩鉱物で、微小な(潜晶質)結晶の集合体です」と書いてある。しかし、ミリサイズ以上の自形結晶が見られるかどうかは、まったく別の問題だ。一般には脈状(下の標本)または塊状(No.40)で産出するものが、ほとんどすべて。
補記:トルコ石の結晶は 1910年頃にリンチ・STで初めて発見され、それまで不明だった結晶学的特性が明らかにされた(1912年)。
追記:リンチ・ステーション村はリンチバーグから南に20マイルにあり、そこから西へ 1マイルのところにビショップ銅鉱区がある。周辺は林地で、小規模なマンガン/鉄鉱山がいくつかある。ビショップ鉱区も 1880-90年代にはマンガンを掘っていた。地質学者の J.H.ワトキンスがトルコ石の結晶を採集した時(1910年)にはすでに閉山していたようだ。その後、1941年にコレクター(R.V.ゲインズら)が再発見するまで、産地はあまり知られずにいたと思われる。60年代に大勢のコレクターがやってきて多数の良標本を掘り出した。あるコレクターは地権者の妹のミセス・トラビスから自由に採集してよいとの許可を得たが、「いや、採集料を1ドルずつ取った方がよい」と勧め、以後そうなったという。コレクター側もその方が気楽だったかもしれない。80年代にも標本が市場に流れた。
ビショップ鉱区のズリ跡は多年の間に大勢のコレクターの手にかかったが、2000年代に入ってもまだ良品を採ることが出来たそうだ。あるいはトルコ石の結晶は、ポストマイニング・ミネラルとしてズリ場にのみ生じるのかもしれないと言われ、数年間で生えてくるとの説がある。比較的若い樹木の根や幹の内側に結晶が見つかることがあったとも言うが、古いお話なので必ずしも信じられていない(現物がない)。
トルコ石の結晶は白雲母片岩や破砕された灰色の珪岩上に生じており、単結晶のサイズは
2mmを超えないが、花弁状に集合したり、群晶して母岩を数センチにわたって美しいトルコ青色に染めることがある。(2020.5.30)