326.透緑閃石 Tremolite & Actinolite (USA産ほか)

 

 

トレモライト(白)の放射状結晶 
−USA、AZ、サンセット鉱山

トレモライト(淡緑)の柱状結晶 
−アフガニスタン、コラン・バ・モンジャン産

アクチノライト(深緑)の繊維質平行集合 
−ミャンマー、モゴック産

アクチノライト(深緑)の柱状結晶 
−ロシア、ウラル、スルドルニク産

アクチノライト(濃緑)の扇状集合 
−オーストリア、Talgenkopfe産
(滑石、緑泥石に伴う)

アルバイトを伴う透閃石結晶 
−USA、NY、セントローレンス、セレック・ロード産

ネフライト(微晶質で緻密なActinolite)
- 新潟県宮崎海岸産

 

Tremolite(トレモライト・透閃石)と Actinolite(アクチノライト・緑閃石)とは、鉱物学的に同じサブグループに属する鉱物である。前者は鉄分をほとんど含まない端成分に近いもので一般に白っぽい。後者はマグネシウムの一部が鉄に置き換わったもので、鉄分の割合に応じて暗い緑色を帯びている。(→補記1)
トレモライトはスイス、サンゴタールのトレモラ谷に産する清楚な結晶が名の由来(1790年)で、アクチノライトは結晶が放射状に集合した外観からギリシャ語の「Actis-放射光」 をとって命名された(1794年 by R.Kirwan)。当時は別種と考えられたのかどうか分からないが、両者の典型的な標本は同じ地方のものでもまったく違った外観を示すことが多いので、そうであって不思議ないように思われる。

結晶構造は No.322(透輝石)に示すように二重鎖状。普通は針〜繊維状の、放射(または平行)集合体であるが、柱状結晶にもなり、潜晶質の緻密な塊(いわゆるネフライト)にもなり、あるいは石綿状にもなる。ウラル地方に産して輝石の外形のまま本鉱に変化したものはウラル石 Uralite と呼ばれている。
肉眼的な結晶はへき開明瞭、ぽきぽき折れたり、はがれたり、細いものは手に刺さったりして、もろく感じられる。ところが軟玉となると、触感的に随分しっかりした印象に変わる。微細な繊維質が複雑に絡まりあい、硬度はさほどでないが、強度が著しく増すためだ。
軟玉のよいものは(実験室的に)6,000気圧相当の圧縮応力に耐え、一方、根気よく磨けば自由に成形することが出来る。石器時代に最高の素材として愛されたのも当然といえよう。(ちなみに、ひすい(硬玉)と比較すると、軟玉は硬度で劣り、強靭さで優る。−補記参照。)

ここで注意すべきは、石器としての質の良さ(強靭さ)は、宝玉としての質の良さ(美しさ)と必ずしも一致しないことだ。透明感のある上質の玉が、かえって欠けやすかったりする。
殷代以前の中国の玉製祭祀器(石斧や石刃)は、素材的に美しいといえないものが多いが、少なくとも実用器としての記憶がまだ残っていた時代には、そんなこと誰も気にしなかったに違いない。人にとって美はしばしば物体の機能に宿り、すぐれた機能は存在の在り様に必然性を感じさせるからである。

補記1:現在の角閃石族の分類によると、組成中の鉄分とマグネシウム分の相対比率で鉄分が10%以下のものが Tremolite、 10%(超)〜50%までのものが Actinolite に分類される。2者は別種の鉱物とされている。Actinolite は英名の雅称にRadiated Stone、独語に Strahlstein とも呼ばれる。
Actinoliteより鉄分の多いもの(鉄とマグネシウムの比率で鉄が50%以上)は Ferro-actinolite 鉄緑閃石に分類される。ただし鉄分のみでマグネシウムを含まない端成分に近い物質はほとんど存在しない。鉄は2価の陽イオン Fe2+として含まれる。3者の間には完全な固溶体関係があって、組成は連続的に変化可能である。 IMA の定義では
Tremolite は ☐Ca2(Mg5.0-4.5Fe2+0.0-0.5)Si8O22(OH)2 と、 Actinolite は☐Ca2(Mg4.5-2.5Fe2+0.5-2.5)Si8O22(OH)2 と、Ferro-actinolite は☐Ca2(Mg2.5-0.0Fe2+2.5-5.0)Si8O22(OH)2 とされている。 カルシウム Ca の前の☐は空位の意味で、構造的に原子の入らない位置のあることを示す。ここにナトリウム Naが入る変化がある。

補記2:軟玉の破断強度は約 200MN/m2、硬玉のそれは約 100MN/m2 というから、単純に言って、倍の強度がある。いわば、前者は靭玉、後者は脆玉といえそう。なお、モース硬度では、軟玉が5〜6、硬玉が5.5〜6である。

補記3:18世紀末頃はさまざまな鉱物がショールと呼ばれていた。 cf. No.482、 No.781
緑色ショールと呼ばれたものは後に緑れん石、ベスブ石、緑閃石に区分される。結晶が放射状に集合したものは Strahlschorl (放射状のショール)と呼ばれていたが、ウェルナーはショールと別の鉱物と判定して Strahlstein と呼んだ。ここから Actinolite の名がきている。
日本では和田博士が Actinolite の訳語に中国語名の陽起石を採用し(明治11年)、また緑繊石とも訳した。後に光線石とした。なかなかしっくりこなかったのであろう、結局、緑閃石に落ち着いている。
陽起石の名は本草家たちが古くから用いたもので、日本でもすでに和名抄(-938年)に出ている。中国の漢方薬市場に出回るものはみな(白色の)透閃石で緑色のものはないと益富博士は述べており、すれば陽起石= Tremolite ≠ Actinolite ということになる。陽起石は「雲母の根」と集解にあり、弘景曰く「産地は雲母と同一で、甚だ雲母に似ているが厚みが違う」と。透閃石はホータンの羊脂白玉と同じ鉱物成分を持つ。陽起石を羊起石と綴るのもその白さの連想か。本経に「白石」の名で出る。
陽の気を起こす石と考えられたらしく、斉州の産地の土の山は陽起山といい、いつも温暖の気があって厳冬で近隣が雪に埋もれてもこの山は冠雪しないという。雪上に置くとすぐに沈むものが本物。益富博士は「陰萎不起」を治す効能からその名があると。

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