354.硫砒鉄鉱 Arsenopyrite   (日本産)

 

 

硫砒鉄鉱(結晶は酸化して錆び色になっている)
−岐阜県洞戸町相戸(あいど)鉱山産

硫砒鉄鉱(現役の鉱山に産した比較的新鮮な結晶)
 −中国、湖南省、瑶崗仙産

 

本鉱はかつて、砒素を含んだ黄鉄鉱の一種 (Arsenical Pyrites) として扱われていた。学名 Arsenopyrite はその認識を受け継いで、 1847年に定められた(by E.F.Glocker)。黄鉄鉱は鉄原子と硫黄原子とが1:2の割合で結合したものだが、硫砒鉄鉱は鉄と硫黄と砒素とが1:1:1で結合した物質にあたる(結晶の空間構造は白鉄鉱のそれに近い)。黄鉄鉱は鋼や石英と打ち合わせると火花を飛ばすが、本鉱は火花に加えてニンニク臭(葱臭)を発する(砒素由来の香り)。硝酸を加えると分解して、硫黄を析出する。
鉄の代わりにコバルトを含むことがあり、コバルトが過半を占める種 Glaucodot との間に連続的な固溶体が存在する。余談ながら、 Glaucodot はギリシャ語の「青い」に由来する名前で、この鉱石(中のコバルト)が青色ガラスの製造に利用されたことによる。

比較的産出が豊富で、代表的な砒素の鉱石である。毒物としての砒素の利用には長い歴史があるが、近世以降、農薬としても重宝された。その毒性が農作物の増産に役立ったのであり、日本でも農薬や化学薬品の原料とする亜砒酸製造のため、本鉱が盛んに採掘され、焙焼された時期があった。そして深刻な公害問題を残した。古い和書には「毒砂」の名が見える。 cf. No.653
「古来、本鉱を焼きて亜砒酸を含める粉末を製し、鼠殺しとして用いたり。カナダの産には金を含有するものあり。」(安東伊三次郎 「鉱物界之現象」(1906))。

新鮮な結晶は白銀色で鏡のように光るが、風化しやすく、曇ったり黒化したり、赤褐色がかったりする。(生野鉱山では「あかどうきん」と呼ばれた。 cf.No.654
上の画像は岐阜県相戸鉱山産の古い標本で、スカルンとの接触鉱床中に出たもの。当地では昭和30年代に 5cmに及ぶ庇面式美晶を産したといい、この標本もなかなか立派。採集に行くにはヒルの出る険しい山道を通らねばならないそうで、聞いただけでひるんでしまう。
「鉱物採集の旅 東海編」(1977)には、「地元の人の案内がないととても登れません」とある。

<硫砒鉄鉱の結晶構造モデル>
- Dana's New Mineralogy 8th より

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