394.ペイナイト Painite (ミャンマー産)

 

 

painite

ペイナイト 4.54g -ミャンマー、モゴック、オン・カイ谷産
(バックライト撮影−実物はほとんど黒褐色)

 

2001年にエレミア石、02年にペンタゴン石やラズベリル(ペツォッタ石)、03年逸見石、04年レインボーガーネットと、このところ美しく希少な鉱物のホットスポットが年々歳々見出され、大量の標本が市場に流れているが、続く05年の出物なら、なんといってもペイナイトを挙げたい。これまで極めつけの珍品とされてきた鉱物である。
美しいかどうかは、う〜んと首をひねってしまうが、それは私の修行が足りないから。
「青い鳥」の妖女ベリリウンヌ、
「石はどれでも同じなんだよ。どの石もみんな宝石なんだよ。だが人間はその中のほんの少しだけが宝石だと思っているんだよ。」と教えている。

この石は、1952年にビルマ(ミャンマー)のモゴック、Ohngaing (オーン・カイ)という土地で、宝石鉱物を含む漂砂鉱床の中から拾い出されたのが事の始め。発見者はイギリスの宝石商でありコレクターだったアーサー・C.D.ペイン氏。なにかぴんとくるものがあったのだろう、分析の結果、新種であることが分かり、57年にペイン石の名で記載された。
理想組成 CaZrBAl9O18 の六方晶系種。世に知られた結晶標本は、長い間、大英博物館が所蔵する2個だけだった。
1979年になって、3個目の石が発見されたが、これはGIA(米国宝石協会)に寄贈された宝石原石の包みに紛れ込んでいた。4個目の標本はさらに20年を経て2001年にミャンマーで公表された、という具合で、まず市場に出る石じゃなかった。
ところが、ここからの進展がまさに神速。02年ミャンマー北部で新たな産地が見つかり、数個の石が採集された。するうち、04年末には原産地の漂砂鉱床近くで初生鉱床が発見された。原標本の表面があまり磨耗していないことから、さほど遠くないところに脈があるはずと目星をつけ、付近を丹念に調査した結果であった。さらに05年6月になるとモゴックに新たな産地が2ケ所見つかり、その頃から標本が一挙に市場に溢れ出した。
実際、近隣の村では誰もがペイナイトを採集して売っていたといい、丘を崩して総ざらえするような大掛かりな作業(投資?)の結果、今や少なく見積もっても千個以上の標本が存在していると思われる。
ちなみに、良質のペイナイトはバラ色透明で、硬度8とカタいから宝石になりうる。05年の中頃まで、カット石はたった2個しかなかったらしいが、それもすでに昔語りだ。

そんなわけで、私もこの機会を逃したくなくて、上の標本を買ってみたのだけど、いざ手にすると、ちっとも感動がない。というか、地味な石ころにしか感じられない。結局、希少さだけに踊らされてるようではダメなのだ。
伝説を白日の下で拝めば、これもまた夜の青い鳥。

追記:先般ロンドン自然史博物館を訪れたとき、ペイン氏のコレクションを紹介するパネルがあり、2個のペイン石はこちらに収蔵されているとの説明があったので付記しておく。以下、同博物館で撮影した写真2点 (2012.12.1)

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