455.菱沸石 Chabazite (USA産)

 

 

Chabazite 菱沸石

菱沸石(シャケ色)、輝沸石(透明)、濁沸石(白)、黄銅鉱(上辺の沈色)
水晶上に
 -USA、NJ、パターソン、ニューストリート採石場産

 

菱沸石は自形結晶が発達しやすい沸石で、立方体に近い菱面体(γ'=94.4°あまりつぶれていない菱形)〜六角板状の結晶をみせる。双晶することも多い。輝沸石と並んで、もっともオープンな構造を持った種のひとつで、No.449に書いたと同様の機能性素材として利用されている。工業用途の沸石は合成品が一般的だが、産出の多い菱沸石は天然のものも市場に出ている。 (→補記)

理想組成式は、おおむね Ca[Al2Si4O12]・6H2O のように書かれるが、つねにナトリウムやカリウムといった他の成分を含んでおり、また、これよりアルミニウムの少ない(珪素の多い)ものも知られている。

加藤博士によると、沸石は「火山岩、火山砕屑石を始め、深成岩、ペグマタイト、超塩基性岩、堆積岩などのほか、鉱脈の脈石鉱物として産することもあります。造岩鉱物との関連性という点からみると、長石に水分が加わったようなものとみなすことが出来ます。しかし、水分を除いて考えると、長石より珪酸分に乏しいことも、富むこともあります、従って、種類によっては石英と共存しないものもあります。また炭酸基の濃度が高まると、カルシウムを主成分とする沸石が、方解石の生成によって、消滅してしまうこともあります。」
「造岩鉱物と同様に、珪酸分の不足(逆は飽和)を論ずることができます。理想化学組成式で、Al:Si=1:2に境界を引くことが可能で、これより珪素が多い種は、準長石を含んだ岩石中には産出しない、という経験則があります。」
ということで、上記の理想式はちょうどその境界にあたり、中間的な性質の沸石ということになる。輝沸石束沸石は珪素分が多い側、ソーダ沸石〜中沸石〜スコレス沸石はアルミニウム分が多い側に位置付けられる。菱沸石は、いずれの種とも共産することがある。

上の標本は、ニュージャージー産の典型的な標本で、鉄分のために淡いサーモンピンクに染まっている。輝沸石や濁沸石と共産し、それから黄銅鉱もついている。パターソンでは特に玄武岩の破砕帯に銅を含んだ熱水が作用した形跡があって、一部の産地で斑銅鉱やそれから変化した輝銅鉱の産出が知られているが、黄銅鉱はこれらに比べるとより広範囲に観察されているそうだ。晶出時期はNo.439の区分でいうと、5)沸石の晶出段階にあたり、そのことは標本からも見てとることが出来る。ちなみに黄鉄鉱が共産する例は稀という。

ニューストリート採石場には、1893-1925年にかけて採掘された Upper Quarry と 1900-1936年にかけて採掘された Lower Quarry とがある。前者は稼動を終えた後も70年代までコレクターに開放されていたが、その後自動車スクラップ置き場になった。後者は60年に工場が建ったが、学術目的のコレクターには敷地内での採集を許可していたらしい。この標本がどちらのものかは、分からない。

補記:例えば、石炭火力発電所で発生する燃え殻の石炭灰をアルカリで処理すると、多孔質化して人工のゼオライトになる。陽イオン交換機能によって鉛等の重金属を吸着するので、水質浄化システムに用いることができる。接触時間30分で除去率99%、1時間接触させておくと環境基準値の0.01mg/L以下まで水質を改善できるという。 鉛のほかにカドミウム、亜鉛、マンガン、銅なども吸着する。

補記2:菱沸石は一般の沸石よりも低温条件での生成が起こりうるもので、おそらく100℃以下、場合によっては地下水や低温の鉱泉からの生成もありうる、と加藤昭は指摘している(鉱物観察ガイド)。

補記3:国際名 Chabasite は古代ギリシャに Chabazios と呼ばれた石の名に由来している。

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