439.ソーダ沸石 Natrolite (USA産)

 

 

natrolite

ソーダ沸石 −USA、NJ、サマセット郡、ミリントン採石場産
2001年10月採集

natrolite

ソーダ沸石の細柱状結晶が放射球状に集合した典型
−タスマニア島、グリム岬産

 

ニュージャージー州の北東部にワッチャン山脈と呼ばれる尾根筋があり、三畳紀に形成された堆積岩と玄武岩の隆起帯が分布している。さらにその周りはおおきく先カンブリア紀〜古生代の花崗岩台地となっており、これが堆積岩の起源と目される。
隆起帯は、パンゲア大陸が分裂してアメリカその他の大陸に分かれた一連の地殻変動に伴って、およそ2億年前、玄武岩質溶岩が堆積岩の隙間を縫って押し上げられて出来たもので(trap rock)、特に空気を巻き込みながら枕状に発達した溶岩中の空隙には、後に熱水の作用でさまざまな二次鉱物が形成された。
かつてジョー・サイレンが住んだパターソンは、ワッチャン山脈の麓の町で、20世紀の前半にはいくつかの玄武岩採石場が稼動していた。この地域の玄武岩は粒質が細かく強靭で風化によく耐えることから、鉄道線路や道路のバラストに理想的な石材として利用されたのだったが、玄武岩に伴ってぶどう石やペクトライト、各種沸石、方解石などのよい結晶標本もたくさん採れた。
これらは概ね次のような段階を踏んで晶出したと考えられている。

1)玄武岩質火山ガラスの枕状の塊や玄武岩の流紋状の塊が形成される。

2)湖水成分に由来するカルシウムやソーダ(ナトリウム)や硫酸塩が、硬石膏やグラウベル石(石灰芒硝)として結晶する。水分の浸入が進むにつれ、珪酸成分が安定化して石英となって晶出する。

3)石英(水晶)の晶出がどんどん進み、玄武岩を侵食してゆく。グラウベル石などの晶出は止まる。

4)さらに水分の浸入が進んで、グラウベル石が溶け出す(硬石膏はまだ溶け出さない)。熱水中にカルシウムやナトリウムが供給される。ぶどう石が形成され、またペクトライトやダトー石のようなカルシウムに富む鉱物も晶出を始める。熱水中のカルシウムが乏しくなると、硬石膏が溶け出す。

5)アルミノ珪酸塩水和物である沸石類が晶出を始める。ここに組成中の珪素とアルミニウムの数の和と、酸素数との比は1:2である。

6)方解石が晶出する。この段階まで残っていた硬石膏やグラウベル石は石膏やソーマス石などに変化してゆくことがある。

このような経過により、例えば菱面体状の空隙の周りを石英が覆い、あるいは埋めた産状(グラウベル石の仮晶)が見られたり、ぶどう石の上に沸石が晶出した産状が見られる。(cf. No.436はぶどう石とペクトライトとがほぼ同時期に晶出したことを語っている)

ソーダ沸石(ナトロライト)は、Na2(Al2Si3O10))・2H2O の組成を持つ沸石の一種である。加藤博士によれば、「珪酸分に乏しく石英と共存しえないので、玄武岩のような珪酸分に乏しい岩石の中に産出する。断面がほぼ正方形の柱状をなして、放射状集合をつくることがある。しばしば根元がいくらか幅の広いトムソン沸石からできていることもあり、これが小さいときは、コロニー状の集合となる」という。(広域的にみれば、パターソンには紫水晶などの石英類も産するが)
中沸石スコレス沸石と物理的・化学的な性質が似ていて、ひとつのサブ・グループとして扱われる。スコレス沸石は理想式 Ca(Al2Si3O10)・3H2Oで、ソーダ沸石のナトリウムをカルシウムに置き換えた成分に相当し、中沸石は Na2Ca2(Al6Si9O30)・8H2O で、中間的な成分を持つ。ただ、3者は結晶構造のやや異なる独立種で、成分の遷移は連続しない。またカルシウム分が増える順に水分(沸石水)が増えていく。
これらの肉眼による区別は必ずしも正確には行えない。屈折率の測定、または偏光器を用いて消光角の測定を行うのが簡便な鑑別法で、ソーダ沸石は直消光、スコレス沸石は斜消光(16〜18度)、中沸石は直消光だが複屈折が小さいので透過光が暗い。
ニュージャージー州に産するこの類の沸石はほとんどソーダ沸石であり、中沸石はある特定のエリアのみに集中しているそうだ。
標本は着床がアマくて脆く、晶洞を手掘りで割り採るときに結晶が外れやすい。保管時の取扱いにも十分の注意が必要。

パターソンの採石場の多くは20世紀の半ばまでに稼動を終えたが、その後しばらくの間、広く愛好家に開放されていた場所もあれば、鉱物クラブにのみ開かれていたのが、あまりのマナーの悪さに採掘禁止になった場所もあった。また20世紀の後半に行われた州間道路や暗渠工事の際に美しい標本が一時的に供給されたこともあった。
上の標本の産地は同州ミリントンだが、ここはパターソンより30キロほど西で、同様の玄武岩隆起帯に位置する。2001年の採集品ということだから、今でも採取可能なのだろうが、詳らかにしない。⇒追記。
いずれにせよ、1960年代から70年代にかけて、NJ産標本の市場流通は後退し、あたかも真打ち登場の声を聞くかのようにインド産の沸石が世界的に出回り始める。品質も規模も、従来の標本をはるかに凌駕するものだ。これは空前の壮挙であった。

補記:ソーダ沸石、中沸石、スコレス沸石は、ひとつの放射状集合のなかで、共軸平行連晶をつくることもある。その場合は中心から外側へ向けてカルシウム分が多くなる順に並ぶ。ソーダ沸石とスコレス沸石が直接接して産することはない(間に中沸石が挟まる)。ちなみにソーダ沸石は方沸石と共生することがあるが、ほかの2種は共生しない。

追記:ある米国標本商さんのアナウンスによると、ミリントンの採石場は宅地造成にかかって完全閉止した。ピットは埋め戻され、ほどなく住宅が建造される予定という。収穫期は終わった。(2018.2.21)

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