470.スマラグド石 Smaragdite (スイス産)

 

 

Smaragdite スマラグダイト

スマラグダイト -スイス、ツェルマット−ザースフィー産

 

スイス産の標本を専門に扱っているらしい業者さんのブースでこの石を見つけた。Smaragdite とあり、とっさにエメラルド?と思った。ドイツ語圏ではエメラルドのことを Smaragd と呼ぶから。
でも、見た感じはクロム透閃石のように見えるし(→バイカル産標本)、触ると軟らかい感触があって、これはどうしてもベリルのタッチでない。訊いてみると、やはりクロームリッチなアクチノライトの一種で、スイスはツェルマット地方の、高度に変成を受けた古い地層から採れるものだという。説明して下さった方の飾らない物腰が好ましく、もちろん標本も持っておきたかったので、頂いて帰った。こんな成り行きで未知の鉱物を手にすることが時々ある。

帰って辞典を調べてみると、思いのほか、すぐに見つかった。
久米武夫著「新宝石辞典」には、「緑閃石、緑輝石(古)  陽起石の如き緑色の角閃石をいう。またエメラルド、クローム雲母(Fuchsite)その他の緑色石をも斯く呼ぶことあり。」とあったし、近山晶著「宝石宝飾大辞典」には、「和名は緑閃石。角閃石の一種で、成分的にはアクチノーライトに近いがMgの含有量が多い。(中略) 名称はギリシャ語のsmaragdosに由来し、その色がエメラルドに似ることを示している。」とあった。
宝石関係の書に顔を出すということは、装飾品としての用途があったのだろう。

しばらく経ってチェコで出版された鉱物図鑑(のドイツ語版)の索引を見ると、 Smaragd(エメラルド)の次にSmaragdit(本鉱)があった。ページを繰ると、この画像より透明感のある翠色の標本が載っていて、ドイツ語だからほとんど読めないのだが、上に書いてあると同じような記述で、産地にはスイスのツェルマット、オーストリア、ロシア、アメリカ等が連なっていた。
この図鑑は今まで何度も開いて楽しんできたはずだが、素通りしていたのか記憶に残っていなかった。縁なきものは見れども見えず、ということか。
ついでにアト・ド・フリースの「イメージシンボル事典」を見ると、「スマラグダス smaragdus は緑色の石の総称である」と出ていた。それなら、この石がスマラグダイトと呼ばれるになんの不思議もない。
多分、この先この石の名を忘れることはないと思う。なぜって、いま実際に石を手にしているのだもの。縁が結ばれたのだ。

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