472.エリナイト Aerinite (スペイン産ほか) |
エリナイト(アエリナイト)は「大気の、空の−」を意味するギリシャ語の接頭辞
aer- を冠した鉱物で、その名の通り、明るい青色〜濃青色〜暗灰色をしている。
ポーランドのブレスラウ博物館に所蔵されていたスペイン産の標本を
ラゾー(Lasaulx)が研究し、新種として発表したのが始まりで(1876年)、それから数年遅れてスペインのアラゴン州ウェスカ付近の村から、実際の産地が発見された。Ophite
を母岩とする空隙を、繊維〜放射針状の集合をなして脈々と埋め、スコレス沸石やぶどう石を伴っていた。
エリナイトは、沸石相に生じる熱水起源の鉱物なのである。ウェスカ県ではカゼラス村付近、Juseu、Estinopinan
に産地がある。隣のカタルーニャ州レリダのタルターレン(タルタロー)は美しい明るめの空色のエリナイトを産することで知られる。cf.
ヘオミネロ4
その後、データの不備が指摘され、独立種を否定されていたが、フランスのサン・パンデロンにも産地が見つかり、これを模式標本として改めて研究が進められた。そして1988年、晴れて独立種に返り咲いた。組成式はCa4(Al,Fe3+,Mg,Fe2+)10Si12O35(OH)12(CO3)・12H2O
。(補記)
木下亀城著「鉱物学名辞典」(1960)を翻くと、「青色の含石灰レプトクロライト(Leptochlorite)と輝石、石英及びスピネルの混合物。ギリシャ語のaerinos(aerial)に由来する語にして青色を呈するため、かく命名された。命名者A.V.Lasaulx(1873)」と載っていて、当時は混合物と考えられていたことが覗える。
分析によるとスペイン産のエリナイトは、鉄分が通常の1.5倍ほど含まれているという。
モロッコにはOurika
に出ると文献にあるが、上の標本のラベルには Ouarfafate
と読める文字が書かれているので、そのように打っておく。
ちなみに合成石にエリナイト(Erinite/ 緑青色の合成スピネル)というシロモノがあるが、本鉱の預かり知らぬところだ。かつてErinite (エリンはアイルランドの古名)と呼ばれ、Erinadine と改名された石はスペサルティンの亜種で、これまた関係がない。
補記:Leptochlorite −レプト緑泥石。熱水性の粘土鉱物の一種、らしい。エリナイトの組成式は IMA 2020-03 では (Ca,Na)6(Fe3+,Fe2+,Mg,Al)4(Al,Mg)6Si12O36(OH)12(CO3)·12H2O。
補記2:地元ではこの石はラゾーが記載する以前から知られており、顔料や飾り石の素材として商業的に用いられていたが、その正確な採取地は利権も絡んで伏されていたという。