535.ぶどう石 Prehnite (ロシア産)

 

 

Prehnite on Quartz vein ぶどう石 プレナイト

水晶上のぶどう石 −ロシア、ウラル、カラバンダ産

 

はや20年近く前になるが、楽しい鉱物学(草思社)に、「珪酸塩鉱物の珪酸四面体の連結の程度を高温から低温に至る鉱物生成条件の変化の流れとしてとらえる試みがなされている」と紹介されていた。
それによると、マグマの温度が高い状態では珪酸四面体が単体で存在するネソ珪酸塩だけが安定な構造として存在可能で、温度の下降に従い、ソロ珪酸塩→イノ珪酸塩→サイクロ珪酸塩→フィロ珪酸塩→テクト珪酸塩の順でより複雑な構造が成立するようになるという。一意的に温度が下降する環境条件ではこの順序で鉱物が晶出する流れを想定出来ることになる。(cf.No.312
これはまだ仮説だということだったが、20年経った今ではどうなっているのだろう。解説して下さるべき著者の近刊が待たれる。(なにしろ「楽しい鉱物図鑑3」の公式告知があってから、我々はもう5年待っている)(15年待ってる -2018年。残念ながら構想は空中分解して、もう出る見込みはないようである -2022年。)

ぶどう石はCa2Al[(OH)2| AlSi3O10] の組成式を持つフィロ珪酸塩である。しばしば沸石(テクト珪酸塩)を伴い、沸石に先行して生成される、とモノの本にあるが、それは上記の理論に基づいているのだろう。しかしこのページの標本のように、水晶(テクト珪酸塩)の脈の上にぶどう石が載っているようなことも珍しくない。この場合には一見、仮説が成り立たないようにみえる。もちろん生成環境の温度は下がる一方で上がったりしないという前提での話である。
同様に、No.533に載せたフィロ珪酸塩の魚眼石も、理論的には沸石より先に晶出するはずだが、現実の産地では必ずしもそうなっていると限らない。そのあたり、例えば、これは環境温度が再び上がったためであるとか、水晶の生成温度はぶどう石のそれより高い場合もあるとか言えるようになれば、標本を鑑賞する楽しみもさらに増えるのだが、それには僕はまだまだ勉強が必要だし、一方、鉱物学のトピックにアマチュアがもっと簡単にアクセスできるようになればいいなと思う。

ブドウ石は、鉱物の中でももっとも多様な産状を示すもののひとつだという。成分的に系列を作ることはある程度明らかになっているが、しかし端成分にあたる鉱物が何なのかはまだはっきりしていない。スカルンに産する場合は比較的早期に生成されることもあるし、末期に生成されることもあるという。沸石と同じく、熱水から軽度の変成作用を受けて晶出するのが一般的で、熱すると組成中の水分が抜け出すが、沸石ではないので、脱けたらもう戻ってこない。

この標本はソ連が崩壊してロシア産の標本が漸く市場に出回り始めたころに入手したもの。当時はそう思わなかったが、類似の標本が後続していないので、今となると手に入れておいてよかったと思う。もちろん気に入っている。紫外線によって白い蛍光と燐光とを放つ。

補記:一般に魚眼石、ダトー石、ぶどう石は、沸石類と一緒に出ることが多く、このような場合はかなりの低温、時に100℃〜常温付近で生じたとみられる。

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