487.ひすい マウ・シッ・シッ  Mawsitsit (ミャンマー産)

 

 

Mawsitsit jade マウシッシッ ジェード

ひすい輝石(コスモクロア/マウ・シッ・シッ) 切断面
−ミャンマー産

 

スイスの宝石学者で宝石インクルージョンの大家だったエデュアルド・ギュベリン(グベリン)博士は1963年、ミャンマー北方のトーモー地区にあるマウシシ村のひすい鉱山を訪問した。そのとき普通のひすいと一緒に、黒っぽいインクルージョンを含んだ明るい緑色の石が採掘されていることに気がついた。濃緑と黒緑と淡緑の部分が入り混じった独特の風貌の石で、地元ではマウシッシッ(モー・シ・シ)の名で取引きされていたが、世界市場にはほとんど出回っていなかったものだ。分析してみると、通常よりもクロム成分に富んだひすい輝石を含む曹長石(アルバイト)であることが分かり、博士はこれをジェード・アルバイトと名づけて、ひすいと区別した。ひすい成分よりも曹長石成分の方が多い岩石(混合物)だからである。
宝石業界ではスード・ジェダイト(Pseudo-Jadeite:擬ひすい)とも呼ばれて、ひすいとしては扱われないが、模様が美しいので宝飾品や彫刻素材として好まれる。
市場に多く出回るようになったのは1990年代に入ってからで、日本での取り扱いは97年頃から増えてきたらしい。多量の鉄分を含んで濃緑色〜黒色になったひすい(ジェダイト)をクロロメラナイト(濃緑玉)と呼ぶが、当初はそれと混同して(つまり、ひすいとして)販売されたこともあったという。

岩石マウ・シッ・シッの成分については、後により詳細な研究が行われ、例えば1981年のGIAによる分析では、ユーレアイトを主成分とし、アンフィボール(角閃石)、クロライト(緑泥石)、長石類などを含む岩石という結果が出た。
国立科学博物館の図録「翡翠展」(2004)には、「濃緑色の基質に黒色の斑状および白色の脈状模様を有する特異な外観の岩石である。濃緑色部はコスモクロア輝石、エッケルマン閃石(角閃石の1種)、曹長石を主体とし、黒色部はエッケルマン閃石、白色部は曹長石を主体としている。若干のひすい輝石を含有するようである」とある。
半透明の灰色部分があれば、ソーダ沸石などの沸石類だ。岩石なので、(含クロム)ひすい輝石の含有度合いはピースによって大きく変わるが、センチ級のノジュールが沢山含まれていることもあれば、ほとんど含まれないこともあるようだ。

ここでユーレアイト(Ureyite ユレー石)とコスモクロア輝石(Kosmochlor/ Cosmochlore)とは同じ鉱物種である。ひすい輝石のアルミニウム成分の過半がクロムで置き換わったものに相当し、含クロムひすい輝石よりさらにクロム分が多いものだと思えばいいだろう。
最初に存在が認識されたのはメキシコのトルカ隕鉄に含まれた緑色の細粒で、1897年にラスパイレスは、宇宙の緑色の石という意味からコスモクロア(ギリシャ語のKosmos宇宙)と名づけて記録に留めた。1965年になってフロンデルとクラインがあらためて研究を行い新鉱物であることを確認した。そしてアメリカのノーベル賞化学者で宇宙化学にも貢献したハロルド・ユーリー博士に因み、Ureyite の名を与えた。
ロシアのノボ・ユレイ(Novo Urei)に落下したエコンドライトタイプの隕石に因む「ユレイライト」とは別ものである。紛らわしいので、コスモクロアと呼ぶ方がよさそうに思う。

コスモクロアが地球上の岩石にも含まれていることが示唆されたのは、非公式には日本が世界で初めてだったかもしれない。姫川流域で採集された鮮緑色の石を益富博士がユレーアイトと鑑定されたのが1978年だった。ただし、日本産コスモクロアの公式記録は岡山県大佐山のひすい産地からの報告が最初(1996年)で、姫川産は二番目(1997年)となっている。(益富博士が鑑定結果を公表しなかった理由について、宮島宏氏は「とっておきのヒスイの話」で、サンプルが一個しかなく、しかも転石だったため、発表を躊躇されたのではないかと推測されている。益富博士は発見者にもう一つ見つけて下さいと話されたという)。
世界的にはマウシッシッ中に含まれる可能性が指摘されたのが1979年で、80年代に入って公式の確認が行われた。
その後、合成実験が行われ、コスモクロアはひすい輝石、及び透輝石と連続的に固溶体を形成しうることが知られている。

以上のようにマウシッシッは、ひすい輝石(Na(Al,Fe3+)[Si2O6])とその姉妹鉱物であるコスモクロア(NaCr3+[Si2O6])、また他種の輝石、エッケルマン閃石(NaNa2Mg4Al[(OH)2|Si8O22] )、曹長石(NaAlSi3O8)、ソーダ沸石(Na2Al2Si3O10・2H2O)などを含む石だということが出来る。

こうした鉱物種の組み合わせは、未だ謎の多いひすい生成のプロセスを考える上で、とても興味深いものである。

補記1:Kosmochlor = Cosmochlore = Ureyite
補記2:最初にコスモクロアが発見されたトルカ隕鉄は、ベック博士が鍛造に成功し、日本では刀剣が鍛えられたというシロモノ ⇒隕鉄を鍛えた刀 追記2

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