602.インジゴライト Indigolith (ブラジル産) |
私がこの鉱物を知ったのは、例によってドイツで買った鉱物図鑑の写真でだった。美しい藍色の石に Indigolith とあって、なんと読むやら分からないが勝手にインジゴリスと呼んで念がけた。カナダ産の天藍石に通じる濃い青系のその色に惚れた。
なぜインジゴリスと呼ぶのかと暫く考えていたが、なにかの拍子にジーンズを青く染めるのに使うインディゴ(藍)に関係しているのでは?と思いついた。そうして調べてみると、英語圏では
Indicolite, Indigolite(こちらは近年の用法)
などと綴られることが分かった。和名は藍電気石。なるほどネ。
Indigolith はリチア電気石の一種である。緑やピンクの色を持ついわゆるマルチカラー種の中に、たまに頭部が青〜藍色になったものがあってブルーキャップ(青帽)と愛称されるが、この部分が
Indigolith である。
着色は鉄イオンが関与しているというが、詳しくは知らない。銅に起因するパライパのネオン青と
Indigolith
の深い藍との間には素性の違いを感じるのだが、自在に色の変化を見せるリチア電気石だから、印象だけでモノを言うのはアヤうかろう。
新宿のショーでこの石を見つけたときは嬉しかった。結晶形が現代高層建築風のブラジル産の標本。まるでナイフを当てて柱面を削ぎ落としたように見えるが、まさかそんな手間をかけているはずはないので、自由成長ないし融蝕した形なのだと思う。ちなみに電気石のへき開は、「なし」または「てんで不明瞭」である。
見た目ほとんど不透明な青黒い色だが、光に透かすと画像のように
Indigolith
らしい色と光が観察できる。「どうだ!」と言いたい。Brauns/Spencer
の「鉱物界」(1912)には 「純粋な青色のブルー・トルマリン または Indicolite
の産出は稀である。しかし青緑ないし緑青の石はかなり潤沢に見られる。この石はブラジルではほかの色のトルマリンに伴って産出し、”ブラジリアン・サファイヤ”と呼ばれてきた」とある。パライバのない昔から、青系トルマリンはこの国の特産品だったようだ。
最近はアフガニスタン産のインディゴライトが市場に出回るようになった。平坦でよく整った三角式の頭部をもち、柱面の短いずんぐりした結晶が多いように思う。透明度が高く、藍は濃く、なかなかいいものであるが、私はまだ手に入れてない。縁がないというのか、不思議と見ている眼の前でほかの人に買われていったりする。ある時など、標本商さんが迷惑顔のお客さんに押し売りしているのにゆき遭った。チョー・オススメなのだ。横取りするわけにもいかないから15分ばかり成り行きを見守っていたが、結局我が手をすり抜けた。Indicolith の藍は深い海の色にも似るが、かの標本商氏にむける私の恨みはその海より深い。鉱物愛好家の業である。でも、いい標本を提供して下さったなら、さっぱり水に流そうが如何?
cf. No.829 補記1