646.黄安華 Stibiconite (中国産)

 

 

Stibiconite 黄安華

スティビコナイト(黄安華・黄色)とバライト(重晶石・無色半透明) 
-中国、雲南省、シークアンシャン産

 

黄安華。黄色い、アンチモンの、華(粉)。学名 Stibiconite はアンチモン・パウダーの意。組成式 Sb3+Sb25+O6(OH)。2つの酸化状態を持つアンチモンの酸化物であり、また水酸基を持っている。つまり水が作用して出来た二次鉱物である。輝安鉱(硫化アンチモン Sb2S3)などが風化して生じるが、酸化の過程で硫黄分は完全に抜け去る。
硫化鉱石が分解するとき、遊離した硫黄は硫酸塩鉱物として再生し、金属元素は酸化鉱物を形成するのが二次鉱石誕生の定跡であり、いつかきた道である。(上の標本では硫酸塩鉱物である重晶石がみられるが、この結晶はここではむしろ母岩的な存在のようだ。)
また、熱水鉱脈の末期生成物として初生する例もあるという。

通常は粉末状で自形結晶を示さない。標本として出回っているものは、たいてい画像のように、もとの輝安鉱の結晶形状を保っている。内部に輝安鉱が残っている場合もあるが、風化が進んだものは完全に黄安華に置き換えられる。仮晶ということになる。むしろ本鉱の標本は仮晶をなすものとして知られる、と言ってよい。
地味な鉱物だが記載は 1832年と古く、アンチモンの酸化物である白いバレンチン鉱(1845)や方安鉱(1851)、あるいは深赤色の紅安鉱(1843)などより早い。実際にはいずれももっと以前から知られていただろう。
アンチモン化合物は、原料である銀色に輝く輝安鉱からの変成(風化・酸化)の程度に応じて、黄、赤、白などさまざまな色の粉末ないし昇華物を生じる。そうした色彩の多様さ、色の発現が錬金術師を惹きつけ、複雑で微妙な化学的操作に赴かしめた。そして特殊な状態の(純粋な)生成物がもたらすべき秘跡的な効能を探求させたのだろうと思う。

 

付記:黄安華の原子配列はパイロクロア系鉱物と同じで、これは多くの超伝導物質が基調とする配列であるという。なんだか、ありがたげ。

追記:パイロクロア・グループの命名基準が 2010年に変更された際に、 Stibiconiteは組成・構造の記述が不十分というので、ローメ石グループ Romeiteの亜種とすべきとの提言があった。しかし種名として取り消されたわけでなく、IMA リストには上記の組成式で記載が続いている。背景には、Sb3+が優越する romeite グループに属するものか、Sb3+を含まないと報告された合成物 Sb2O5・1-3H2O に相当するものか、決定するのが困難という事情があるようだ。(2020.8.4)

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