ひま話 フライベルク工科大学コレクション1 (2020.3.1)


ザクセン地方南部は中世以来、幾多の鉱山が拓かれた土地柄で、フライベルク、アンナベルク、シュネーベルク、マリーエンベルクなどの鉱山町はつとに有名である。

もっとも長い歴史を持つフライベルクは 1168年に現在の町の北 16キロにあった村の拡張工事中に銀鉱が発見されたのが始まりという。開山から2世紀近くも繁栄が続いたが、1350年頃から長い衰退期に入った。出鉱量・品位の低下・採算悪化で鉱山は荒廃し、疫病の流行もあって町の人口は激減した。14世紀半ばに国営造幣所に納入された銀鉱石は約10,000マルク(重量)あったが、1453年にはわずか 500マルクばかりとなった。
1484年に町に大火が起こったが、その再建が一つのきっかけとなって鉱山業にも新風が吹き込まれた。新しい縦坑や横坑道(運搬道)が掘られ、新たな鉱脈が発見された。シュネーベルクやアンナベルクの銀山の採鉱深度が深まり、排水などの困難が生じてきたことも技術革新の追い風となった。フライベルクの鉱山が再び利益を産むようになったのは 1520年といわれる。ザクセン景気の高揚によって、フライベルクからドレスデンにかけて大小約 28の鉱山町が現れた。ちなみにマリーエンベルクの鉱山は 1519年に開かれたが、急速に産量を増やして一時は他の鉱山をしのぐほどだった。
折しもエルツ山地南側の峡谷ヨアヒムスタールに鉱脈が発見され(1512年)、瞬くうちに大鉱山町に成長していった頃である。(cf.No.635 淡紅銀鉱

その後 1世紀間の操業でフライベルクの採鉱深度は再び深まった。鉱石品位が下がる一方、湧水量は増えて、17世紀初には危機的状況を迎えた。30年戦争が起こり鉱業施設は損壊され、ペストも流行した。それでも 17世紀後半から鉱区の統廃合が進められたことで緩やかな回復基調に乗り、18世紀初前後に新たな富鉱発見が続いて持ち直した。主稼働鉱坑の変遷は余儀なかったものの、それから 1756年まで出鉱量も地元の銀精錬量も増加の一途をたどった。鉱山業から上がる税収はザクセンの重要な財源であった。

この年、最初の世界大戦といわれる七年戦争(1756-1763)が起こった。戦雲急を告げる情勢にあってプロイセンは予防戦争を仕掛け(オーストリア/神聖ローマ帝国に組する)ザクセンに侵攻(1756年)、鉱山業は大打撃を受けた。
そして戦争が終わり、選帝侯領ザクセンの復興が進められる中で、フリードリヒ・アントン・フォン・ハイニッツ(1725-1802)の指導下にエルツ山地の鉱工業復活が成し遂げられる。この時、優れた鉱業・冶金技術者の育成を目的に 1765年に設立されたのが、近代ヨーロッパ最初期の鉱山学校の一つ、フライベルク鉱山アカデミーだった。
フライベルク工科大学(TU) として現代に続く。設立当初から蒐集されてきた鉱物コレクションは、時を経るにつれ充実の度を加え、今日、目録記載の標本数 9万点超、控え標本(研究消費用・交換用など) 25万点という大コレクションを誇っている。

1769年にアカデミーの門戸を叩いた A.G. ウェルナー(1749-1817)は、卒業後、1775年に母校に戻って教職者としてのキャリアを始める。ウェルナーは地質学・岩石学の泰斗として当時もっとも慕われた人物となる。水成論で鳴らし、鉱山アカデミーの名を大いに高からしめた。授業用に彼が集めた 1万点の地質・鉱物標本は、晩年(1814年)に 4万ターラーで譲渡されて、大学コレクションの礎石の一つとなった。
今日、彼を記念した建物がフライベルク市の中心街にあり、大学の一翼を担う鉱物学研究所の本拠となっている。最上階がそっくり標本博物館として公開されている(一階下にも展示がある)。

アブラハム・ゴットロープ・ウェルナー棟。中に入るといかにも大学の研究室の雰囲気。

最上階の展示スペース。入場料は名目程度だが、写真撮影には別途、
撮影許可料が求められる。(大手を振って撮影出来る)

ウェルナーを称える専用キャビネット。

ウェルナーと、彼の業績に縁の鉱物

アカデミー歴代教授の肖像。それぞれの業績に関わる展示もある。
左からウェルナー、ヘルデル、フライエスレーベン、ブライトハウプト、
ミュラー、シューマッハー、エルズナー、バウマン。

上の画像の全体。フライベルクの鉱床の様子を示す標本群。

ブライトハウプトとワイスバッハの顕彰キャビネット

フライベルク産の鉱石キャビネット。
自然銀(ひげ銀)その他の銀鉱石標本がずらり。もちろんアージロード鉱も。

金属元素ごとに分類されたキャビネット

用途・成因などを基準に分類されたキャビネット 
(左は装飾建材に利用される岩石の、右は変成作用で生じた岩石のキャビネット)

世界の地域別に分類されたキャビネット(欧州・北米などに分かれている)

(組成・結晶系による)系統分類キャビネット

 

とにかく見栄えのする(一般受けのする)特級美麗標本を並べていればよし、
といった姿勢の博物館とは趣旨を異にして、アカデミックな意図が
濃厚に感じられる展示様式。見ていると頭の中で知識が整理されて
いくような、理路整然とした教育的分類にセンスのよさを感じます。

ちなみに特級美麗標本は徒歩数分のところにあるテラ・ミネラリアで堪能できます。

 

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 旅のひとコマ:フライベルクへ


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