ひま話 フライベルク鉱山大学コレクション3 (2020.3.14)


気が向いたら何度でも、好きな時に観に行ける。なんていう博物館は、まあありません。
一期一会と思って、その時を味わうです。でも私の場合、しっかり見たはずのものが
至極あっさりこんと忘却海に沈みます。まるで夜中に見た夢の記憶が朝の寝覚めまで保たないように。しかし写真を撮っておくと、それがアンカーポイントとして機能して、沈んだ景色が今の意識に繋がることもないではありません。ほんの 10年ちょっと前まで思いもよらなかった贅沢。

◆チューリンゲン州産の標本
ザクセンの西隣の州。炭酸カルシウムが沈殿して出来たトラバーチン(石灰質沈殿岩)
が多くみられる地方で、スレート(粘板岩)やカリ岩塩などを採掘してきた歴史がある。
cf. No.291 カーナル石
メルケル村のカリ岩塩坑は二次大戦中に政府が金塊や財宝の隠し場所に使った
ことで有名。現在は鉱山パークになっているそうだ。

あられ石(カムスドルフ産)。 なんだかシャコ貝みたいな形。

方解石(カムスドルフ産)。上のあられ石とどう違うんじゃ?

岩塩上の透石膏。 あ、こんな感じの標本持ってる。→ No.761

輝安鉱。産地のノイミュールは、1750年頃から鉛や銀鉱石を掘ったところだそうで、
1986年まで稼働していた。閉山前の10年間ほどはアンチモンに富む鉱脈を掘り、
毛鉱やブーランジェ鉱の良標本を出したとか。
輝安鉱は 3cm長の柱状結晶が出た。ということは、これ、わりと新しい標本だな。

 

 ◆その他 ドイツと近隣国産

琥珀。ドイツ語にベルンシュタイン、すなわち、燃える石。って、燃やすんじゃねー。
この呼び名は中世からあるもので、もともと香料として燃やしたり、古代には燃料に
使っていたことによるらしい。主産地のバルト海は第三紀には熱帯性の植物が
繁茂する土地で、琥珀はその遠い名残り。
「プロイセンのポメラニア高原の付近で琥珀の発見されない土地はない」、と
ハルトマンは書いた(1677)。当時、琥珀は万能薬とされて、特に歯痛、喘息、
水腫の薬として珍重されたらしい(ウォルム 1640)。燃やして芳香を嗅ぐほか、
粉末にしたり、油に入れたり、錠剤にしたりして服用した。同じ頃バルト海沿岸
地方の住民は海産琥珀の採集労働に強制的に従事させられたが、報酬は
籠1杯の琥珀に対して籠1杯の塩だったという。密猟は苛酷に罰せられた。
東プロイセンで琥珀を大規模(機械的)に掘り出すようになったのは 1860年頃から。

紅鉛鉱と緑鉛鉱。 なんだかよく分からないが興味を覚えたので写真に撮った。
後で調べてみると、産地のカレンベルクはザクセン州ツヴィッカウ近くの小さな
鉱山で、激しく風化した蛇紋岩に鉛-ニッケルの鉱化帯が接する地質。
1977年に(思い設けず)紅鉛鉱の良標本を出したことでドイツ中の愛好家を大喜び
させたらしい。数年後に閉山を迎え、やがてゴミ捨て場になって現在は採集不可。

方解石。ハルツ山地の St.アンドレアスベルクは小さな銀山だが、もっとも有名な
ドイツの鉱物産地に数えられる。15世紀末から1910年まで 400年間稼働した。
濃紅銀鉱、安銀鉱、脆銀鉱などの銀鉱物のほか、方解石、蛍石の美晶、ピンク色の
魚眼石
の標本が有名。方解石は 400種以上の結晶形が記録されているそうだ。

Xylit (Xylite) ケルン産。これも何だか分からないので写真に撮っておいた。
帰って調べてみると、1845年に R.ヘルマンが報告したもので、「木」に似ていること
からその名をつけたという。石綿の変質したもので、茶色の繊維状塊で産する。

クリソプレーズ。「産地不詳」とあるが、ポーランド産じゃないのかなあ?
cf. No.379

銀星石。チェコ、ツェルホヴィッツェ産。
この石はいつの間にか私にとって錬金術を連想させる
ひとつに位して(アージェンテウム・アストルム)、
見かけるとつい撮っておきます。
そういえば魚眼石という名前も、地下の暗闇に光る結晶の様子を
暗い水中から光を返す魚の眼に擬えたもので、やはり錬金術の系譜を
継ぐ発想ではないかと 思います(cf. No.533 魚眼石 補記2)。
「いのちは闇の中のまたたく光だ」
「すべては闇から生まれ闇に帰る」(風の谷のナウシカ)
 cf. No.745

スター水晶。チェコ、ヴルクラビ産。これも星。星は人の魂の本願の地。
FF 7の世界ですね。ライフ・ストリーム。
 cf. No.645

紅安鉱。スロバキア、ペチノク産。 錬金術の紅い星。
赤は血の色 命の色。生きる意志の(石の)色。
cf. No.651

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