パリの5区、セーヌ川畔に広大な植物園がある。公園を取り巻いて並んだ建物群は国立自然史博物館
MNHNを構成し、南西角の鉱物地質館(2014年改装再開)はこの巨大都市にあって見事な鉱物標本を拝める場所のひとつだ。
自然史博物館の歴史は 1635年、ルイ13世の勅令で創設された王立薬用植物園に始まる。18世紀初の啓蒙時代になると本草的な医学面は廃れ、自然史的感覚に拠って多岐に亘る博物標本が研究対象となってゆく。1739年以来半世紀にわたって館長職を務めたビュフォン伯
G.L.ルクレールは収蔵品の充実に努め、「王の庭園」を欧州の知的中心のひとつに育てあげた。彼は任期中に百科事典「博物誌」15巻を刊行した。
フランス革命以降、植物園は一般に公開されて
1793年に自然史博物館が開館。やがて世界各地から博物標本が送り込まれるようになる。アメリカ国立自然史博物館、ロンドン自然史博物館に次ぐ膨大な収蔵標本数を誇る。鉱物標本は
24万3,000点あるといい、加えて岩石標本 30万点、隕石標本2,000点を数える。展示はその一部。ちなみに植物や化石、蟲類、魚類等の標本数は桁違い。
入り口を入ると巨大な水晶群がお出迎え。
ずらり並んだ巨晶が人々を石の世界へ牽き込む。
君たちはどこから来たのか、そしてどこへ行くのか…
これらの巨晶の出自はまちまちだが、少なくともフランス南東部のアルプスは歴史的な水晶産地だった。ドーフィネ地方は名高いガルデット式双晶の本願。cf. 水晶の双晶形式について
ブラジル産の玄武岩晶洞を内貼りする無数のアメシスト。
地球の形成から地表に生物が現れるまで、そして岩石・鉱物の形成。
展示品はどちらかというと一般向けのテイストだが、エンスーの人ももちろん楽しめる。
ガルデット式双晶(日本式双晶) ザンビア、ルアプラ、マンサ産
黄水晶(煙水晶)の双晶、といっていいのか。
煙水晶 フランス、オー・サボワ、モンブラン、ツール・ノワール氷河産
こういう土地に出るのなら、「水が冷え過ぎてもはや溶けなくなったもの」という成因説が生まれるのは当然か。
セプター水晶 マダガスカル、アンボロポスツィ、Mangataboahangy産
無色透明のガラスのような水晶に「ハイアリン」の表記がある。岩石学用語としてはハイアリンはガラス質(非晶質)を指すことが多いが、ガラス光沢の物質にも用いることがある。帽子状に紫水晶が被り、さらにその上に黄水晶が冠っている。希品。
ハイアリン水晶(ガラス光沢の水晶)の碗 産地不詳
フィレンツェの宝飾博物館に 16世紀ミラノの製作品として同様のデザインの器が収蔵されている。素材は当時のアルプス産か、あるいは十字軍の頃に欧州に入ったイスラム製品から再加工された可能性もある。
ちなみにこの時代にはこれほど透明なガラスを吹くことはまだ難しかった。
cf. No.22 (水晶細工の略史)
見るからに手彫りの感じが出ていて素敵。
アルプス産水晶の彫り細工 (狩猟の風景)
アクチノライト入り(草入り)
16世紀イタリア、ミラノの細工と推測される
cf. No.993 (ミラノでの細工)
騎乗して鹿を追う貴人。右側に勢子の狩猟犬も描かれている。
銀で縁取りしたジャスパー製の碗 15世紀
ルイ14世のコレクションから 1800年に博物館所有物へ
歴史的に貴重な品々と思います。
赤色ジャスパーとアメシストの碗。 ボヘミア、チェコ製 15世紀
一見よく磨けたなと思うが、素材として全体が石英と考えれば硬度は一様で異色材間の接合性もよく、案外産むは易しなのか。
(続く)
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