70.ヒスイ  Jadeite   (ミャンマー産)

 

 

ひすい −ミャンマー産

ひすい輝石 −新潟県 青海町橋立産

 

ヒスイという字を漢字で書けば、翡翠である。モノの本によれば、カワセミの羽のきれいな緑色を表すという。

なるほど。しかし、「翠」は翠色の羽を指すとして、「翡」という字は緋色の羽のことではないのか。
それで、別の本を開くと、カワセミの赤や緑の羽の色のことを翡翠と言ったのだ、とあった。
さらに別の本には、もともとカワセミのオスとメスのペアを翡翠と呼んだとあった。そして、数百年前には碧玉のことを翡翠と呼び、いまヒスイと呼ばれている石は碧と呼ばれていた、と。さらに古い時代には、赤や青や緑の綺麗な色石のことを、まとめて翡翠と呼んだのだという。ここまで辿ってやっと、本来の意味が明らかになった。時代につれて呼び方が入れ替わっていったらしい。長い旅をしてきたものだ。(参考:翡翠の由来、 ひすいの話4

…と思っていたら、最近、さらに別の説を聞いた。
ひすいの色は本来白色だが、ときに美しい翠色のものと、緋色(赤茶色)のものとがある。白い地に双方の色が混じった石はとても美しく、本来の翡翠は、この石を指したのだと。

最後の説は、ある程度正しいかもしれない。19世紀以前の、いわゆる老坑(ろうかん)と呼ばれる翡翠は河流玉の一種であり、表面に茶色の皮を被っていた。翡である。これを割ると中から白色の地に鮮やかな緑色の部分が現われる。すなわち翠。この組み合わせを以って翡翠とした。のではないかと思う。そしてミャンマーで翡翠が発見される以前には、おそらく他の石が翡翠と呼ばれており、ある時点で、翡翠と呼ぶべき石の種類と、その語源が変化したのだろう。
さらに19世紀後半以降の新坑(しんかん)翡翠は、河底や山中の岩塊を割って採集されたものが多く、必ずしも十分な「翡」膜を持たない。そこで、白地の中に、クロム発色の翠の部分と酸化鉄に由来する翡の部分を持つ石が本来の翡翠である、と後から理由を付けたのではないだろうか。
これが、今日現在の私の見方。
(ちなみにかつて菱マンガン鉱の美しいものは紅翡翠と呼ばれた)

cf. ひすいの話5ひすいの話6

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