721.アンケル石(鉄白雲石) Ankerite (オーストリア産) |
スティリアの大鉄山エルツベルグの鉄鉱石サンプル。この鉱山の訪問記をひま話に書いたが(エルツベルク鉱山1)、成分交代によって鉄分を含むようになった苦灰質石灰岩の山が、そっくりそのまま鉄鉱石として露天掘りされている。
苦灰石(白雲石)はカルシウムとマグネシウムの炭酸塩で、マグネシウムは容易に鉄に置き換えられる。鉄分が優越するとアンケル石(鉄苦灰石/鉄白雲石)という別種になる。成分交代によって生じるのが普通で、理想組成の(マグネシウムを含まない)アンケル石は自然界に存在せず、また合成物も作られていないとのことである(補記1)。マグネシウムや鉄はマンガンに置き換わることもあり、マンガンが優越するとクトナホラ石と呼ばれる。
画像のサンプルは歴史的にブラウン・スパーと呼ばれてきたもの。茶色と灰緑色の部分が多いが、どのへんが苦灰石でどのへんがアンケル石かと訊かれるとちょと苦しい。また菱鉄鉱も含まれているはずだ。アンケル石は 1825年にハイジンガによって独立種と判定され、スティリアの鉱物学者マティアス・ヨーゼフ・アンケル(1771-1843)に因んで命名された。原産地はいうまでもなくエルツベルグで、アンケルはその頃ヨハン大公に招請されて、グラーツのヨアネウムで地域の産業振興に腕を揮っていた。
このサンプルには赤い部分が見えるが、辰砂(硫化水銀)である。辰砂を多く含むと鉄鉱石としては落第で、製錬に回さず捨てられてしまう。鉱物愛好家はそんな捨て石を有難がって、おしいただいく。
(エルツベルグでは夏季の間鉱山ツアーが行われるが採集は出来ないし、案内事務所で鉱石が売られているわけでもない。念のため)
補記1:加藤昭博士によると、「合成には高圧条件が必要であるが、その産状の多くは低圧還元条件である」「常圧での合成では Fe>Mg とならない」