767.ラリマー Larimar (ドミニカ産)

 

 

Larimar

シャトヤンシー効果を示すラリマー(研磨面) 
-ドミニカ共和国、バラオナ県バオルコ村産

 

 

イスパニョーラ島南部のバオルコ村に産する空色のソーダ珪灰石が、市場に出始めてから40年以上が経った。
この地域に青い石が出ることは、すでに 1916年にミゲル・ドミンゴ・フエルテス・ローレンというスペイン人の神父が、首都サント・ドミンゴの大司教に報告している。しかし採掘の許可を求めた彼の意向は通らなかった。
それから半世紀以上後の 1974年、ノーマン・ライリングとミゲル・メンデスが、バオルコ川の流れ込む海辺で青緑色の水磨礫を拾い上げる。そして事態が動き出した。同年11月にスミソニアンのデゾーテルスらがソーダ珪灰石(ペクトライト)と同定し、1975年にはもうサント・ドミンゴの宝石店で研磨石が売られていた。その経緯にはあまり公けにされていないあれこれがあるらしいが、ともあれ地元に住むメンデスらがベンチャー事業に乗り出し、当初トラヴェリーナ(Travelina)の名で 、それからラリマー(Larimar)の名でキャンペーンを始めたことは確かである。彼らは青い石は海から上がったものと考えて、メンデスの娘ラリッサの愛称(ラリ)とスペイン語の海(マール)に因んでラリマール(英語読みでラリマー)と名づけたらしいが(cf.No.115)、ほどなくバオルコ川上流の山地に初生鉱床が突き止められた。そしてロス・ツパデリョス鉱山が開かれた。

ドミニカ共和国の鉱産資源は基本的に国有財産であり、鉱山局から採掘権を得たものが採掘できる。ラリマー市場が米国に拡がって大きな需要を獲得したのは 1985-86年頃だったが、その頃にはもう 100人近い鉱夫がてんでに権利を買って初生鉱床を掘っていた。彼らは鉱山局の指導によって組合を作り、バオルコ村に置かれた卸店を通してのみ石を売った。しかし数年後には別の事業家が元の(西)鉱区に隣接する東部地域で長期採掘権を取得し、独立に商売を始める。以後は販売ルートが輻輳するようになった。その頃すでにメンデスらは事業から手を引いていたが、業界ではずっとラリマーの名が通っている。日本でのブレイクはさらにその後(90年代以降)のことである。

ソーダ珪灰石/ペクトライトは沸石に類縁の鉱物で、高度に風化された玄武岩の間隙(脈や空洞)に熱水作用によって生じるのが一般的である。バオルコ村の産状も同様だが、ただソーダ珪灰石はどの産地のものでも白色ないし灰色(無彩色)が普通で、青色(や緑色)は極めて異例といえる。青の呈色は数十ppm レベルで含有される銅によるものと考えられている。緑色系の石もやはり銅が呈色要因とされるが、短波長光(青〜紫色スペクトル帯)の吸収率が青色石よりも相対的に高くなっているそうだ。
共産鉱物は、微小な黒粒として輝銅鉱を伴うことが多い。赤褐色のヘマタイトもよく見られ、研磨面にシダ模様(忍ぶ石模様)の現れたものがある。ソーダ珪灰石の放射繊維状の結晶の隙間を埋めるのは、白色ないし無色透明の潜晶質方解石だという(塩酸で容易に溶けるだろう)。沸石類としては透明淡灰色のソーダ沸石が含まれる。

市場に出回るラリマーはほとんどが山中の初生鉱床で採掘されたものだが、小さいものはかつてバオルコ川でも採ることが出来た。川流れの石に高品質のものが多いとされたが、彩度の高い濃い青色の石は、むしろ機械化された手法で初生鉱床の深部が掘られるようになった 1987年以降に採れたものであるらしい。当初は露天掘りが多く、一部に過ぎなかった坑道掘りも、現在では縦坑の数が 2,000を超えているという。多くはいまだ手掘りであるが、高品質の石を求めて地下60mくらいまで掘り進むことも珍しくない(随分、危険な作業である)。
産地の細かい事情や採掘量はほとんど明らかにされておらず、商品の流通は数社の有力な業者に牛耳られている。供給量がコントロールされているので、ラピダリー職人や小売り業者がよい品を入手出来ない時期がしばしばあり、絶産らしいとか、もう良いものは採れなくなったという噂も、これまで何度も流れている。その度、値段は上がっていくが、実情は藪の中である。いずれにしろ、我々の耳に入る情報は商業的な都合で意図的に発信されたものと考えねばなるまい。

アメリカでは、コンクパール、ブルーアンバー(青色蛍光性のコハク)、そしてラリマーが「カリブ海の宝石」と呼ばれて賞賛されている。現在、日本の市場にはかなり良質の石が流通しているが、その値段はおそらく日本人でなければ、まったく手を出す気にならない程度のものと思われる。言い換えれば、良質の石はみな日本に集まっているのではなかろうか?

ちなみに画像のようなタイプの石は、我々鉱石派にはいわく言い難い魅力があるのだが、一般市場ではよいものとはみなされていない。また、もともとラリマーは半貴石として研磨したものやスラブだけが売られて、原石や標本は販売されていなかったのだが、そして鉱山局も未加工品を販売しないよう業者に求めていたはずだが、いつの間にか普通に見かけるようになっている。

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