766.灰長石 Anorthite (日本産) |
灰長石はカルシウムに富んだ斜長石で、苦鉄質の火山岩を構成する造岩鉱物のひとつとして普通に存在する。学名の Anorthite はギリシャ語の An(否定辞) - Orthos (直角/直交) に由来し、結晶が三斜晶系であることを示す(劈開の角度は 86度をなす)。ナトリウム分に富んだ曹長石との間の成分変化は連続的で、かつてはその比率によってさまざまな分類名称が与えられていた。(cf. No.432)
時に透明〜半透明の結晶が、赤鉄鉱(鱗鉄鉱・針鉄鉱)や自然銅を含んで赤色のアベンチュレッセンスを呈する美的なものがあり、サン・ストーンの名で貴石として扱われている。ドイツ語にゾンネン・シュタイン、スペイン語にピエトラ・デル・ソル、フランス語にピエール・デュ・ソレイユ、いずれも同工の名である。ムーンストーンに対する連想からついた名という。日本語に日長石。
日本では八丈島や三宅島などの火山列島に産するものが愛好家の間で有名と思われる。八丈富士で知られる八丈島では石積ケ鼻の溶岩海蝕台や崖の露頭にいくらでも見出せるようである。科博の「鉱物観察ガイド」(2008)に美麗標本が載り、着色の原因について、昔は赤鉄鉱を含有するためとされていたが、(90年代の研究で)原因の一部に自然銅も関与していることが分かったとある。「電子顕微鏡で観察すると、自然銅が糸のように伸びてたくさん集まっている」とのことだが、アマチュアが手元の標本で確認するのは困難であろう。
ためしに光学顕微鏡で覗いてみると、一番下の画像のような感じに糸くず様ののたくりが見え、照り返しは自然銅の輝きに見えるのだが、ではこれがほんとうに自然銅なのかとなると、さまで分かりはしない。
ただ全体的な色の感じからすれば、この標本の呈色はほぼほぼ鉄系インクルージョンによるものだろうと思う。
下から2番目の画像の斜長石の内部に粒状の含有物が見られるが、上記ガイドの記述によると、ガーネットの「仮像」で成分はアルミニウムに富む単斜輝石、斜方輝石、スピネルであるらしい。その右に見える六角板状結晶は鏡鉄鉱と思われる。
補記:三宅島産のものは端成分に近い純粋な灰長石として古くから知られた「クラシック」品で、「学問的に珍重され、外国の研究者が異常に欲しがる鉱物」(草下)だったという。しかし長らく新たな市場流通品がなかったらしく、米国の文献には 1991年に堀博士が提供するまで産地が忘れられていたようだと書かれている。