837.ローゼンブッシュ石 Rosenbuschite (ノルウェー産) |
No.675 にチラと紹介した オウル・ヤンセンの「世界の鉱物」は、500種ほど掲載された鉱物種や標本に目利きの心配りが感じられる図鑑だと思う。どんな本にも出てくる一般鉱物凡そ200種はしかあるべきところとして(No. 575 参照)、あとの300種の選択に著者の思いがしかと反映されている。デンマーク大学博物館の所蔵品をベースにしていることもあって、北欧やグリーンランド産の標本に特に見るべきものが多い。北方世界に分布するアルカリ火成岩(閃長岩)やペグマタイトに産する珍しい組成の鉱物が、欧州の鉱物学史に一定の役割を果たした時代のあったことを、問わず語りに語っている気がする(もっともヨーロッパは、たいていの国が長い鉱山の歴史と多数の銘柄標本とを誇っているのだけれど)。
ローゼンブッシュ石は 1887年にブレガーが記載した種で、ドイツ・ハイデルベルク大学の地質鉱物学者 K.H.F.ローゼンブッシュ(1836-1814) に献名された。アルカリ元素とジルコニウム(類)を含むフッ化珪酸塩として Dana 8th(1997) には組成 (Ca, Na)3(Zr, Ti, Nb) Si2O9F が示され、カスピジン-ヴェーラー石グループに分類されていた。但しむしろリンク石−シードゼロ石グループに近いこと、結晶構造の再検討を要すことも併記された。その後、ローゼンブッシュ石グループとして分けられて(シードゼロ石スーパーグループの下)、組成は 2017年のIMA リストに Ca6Zr2Na6ZrTi(Si2O7)4(OH)2F4 とある。チタン成分は必須でチタノ珪酸塩をなすとみられる。このグループの鉱物は、Na, Ca, Mn, Fe, Ti, Mg. Zr, Nb また Y その他の希土類元素(REE)を、多種さまざまな比率で取り込むことが出来るという。
原産地はランゲスンツ・フィヨルドのブレヴィク近く、リル・アーレ島、中アーレ島、スキューデスンチャー島。カナダのモンサンチラール、ロシアのコラ半島ロボゼロ、グリーンランドのイルマウサーク、マラウィのゾンバといった世界各地の閃長岩地域からも報告されている。
上述の「世界の鉱物」ではローブン石の項にヴェーラー石、モサンドル石とともに言及されていて、類縁鉱物としてより灰色がかったもの、針状結晶が扇形に集合した産状を特徴とする、とある。これらは日本や米国発の図鑑ではまず取り上げられることのない種であろうが…。
ちなみに原産地のひとつ、スキューデスンチャー(スクーデスンスケア)島はヘルガロア近くにある小島の一つである。2,30m 規模の2つの岩場が狭い入り江で繋がった程度の島で、微斜長石を主とするペグマタイトの露頭にヴェーラー石やローゼンブッシュ石の数センチサイズの結晶が出て、19世紀中頃に激しく掘り崩された。1973年以降は採集禁止。