848.ヒオルダール石 Hiortdahlite (ノルウェー産)

 

 

 

hiortdahlite

ヒオルダール石(淡褐色)- ノルウェー、ランゲスンツ、ストア・アロイ(島)産

 

 

ヴァルドマー・クリストファ・ブレガー(1851-1940) はノルウェーの地質学者で、ペルム紀に形成されたオスロ・リフトと呼ばれる断裂帯の構成岩石に関する優れた研究を残した。
クリスチャニア(現オスロ)に生まれ、同地の聖堂寄宿学校に通った後、クリスチャニア大学に学んだ。1875年にノルウェー地質調査所の助手となり、1881年まで同大学の調査研究員を兼任した。1881年 ストックホルム大学の招請を受けて若年にして鉱物地質学の正教授となった後、1890年にクリスチャニア大学に戻って鉱物学・岩石学を教授した。晩期には学長も務めて、1916年に引退した。

彼の地質学研究はほぼあらゆる分野に及ぶと言うが、特に有名なのはオスロの火成岩帯と南チロルの火成岩帯との比較観察で、これによって花崗岩と塩基性岩とに関する多くの知見を与えた。当時はすでに水成論が覆されて火成論が広く受け入れられていたが、ブレガーもまた特定のマグマが火成論的に固化してゆく過程でそれぞれ特徴的なタイプの岩石を生じさせることに深い関心を抱いた(補記)。またノルウェーの古生代岩石に関する研究を通じて、オスロ地域の海面高さが氷河期末期と氷河期以降とで変動したことを示した。
鉱物学の分野ではオスロ〜ラルビク・ランゲスンツ地域の閃長岩ペグマタイトに関する鉱物誌(1890)で知られる。この著述は、地域の地質学一般及び閃長岩ペグマタイトを概説した第一部(235ページ)と、希産種を含む 70種の産出鉱物について詳述した第二部(663ページ)とからなる大作だが、なにしろノルウェー語で書かれているから我々にはいささか敷居が高い。ここにブレガーは8つの新種を示した(cf. No.836 補記2)。

ヒオルダール石はその一つで、クリスチャニア大学のノルウェー人鉱物学者 T.H. ヒオルダール(1839-1925)に献名された。カスピジン−ヴェーラー石グループの一で、淡茶色〜蜂蜜黄色〜黄褐色。三斜晶系。組成式 (Na,Ca)2Ca4Zr(Mn,Ti,Fe)(Si2O7)2(F,O)4。ランゲスンツの稀産種として挙げてきたローブン石ヴェーラー石ローゼンブッシュ石などと酷似し、実際、X線粉末回折パターンで区別することはかなり難しいと言われている。1985年に結晶形の異なる2つのタイプが指摘されてタイプT、Uの区分が認められたが、IMA の検討は受けていない。

 

補記:クリスチャニア大学の鉱物・地質学教授の系譜は 1811年に着任したイェンス・エスマルクに始まり、バルタザール・マシアス・カイルハウが継いだが、この2人は水成論者だった。次の教授テオドル・シェルルフ Kjerulf は修業時代カイルハウに勧められて広く各地の地質を観察して回り、アイスランドの岩石はどうしたって火成論的に形成されたものであることを示した。その後ドイツで化学の手法を学び、化学的に見ても変成岩や火成岩には水成論が適用しえないことを示した。これはカイルハウには嬉しくないことで弟子を冷遇することになったが、彼が逝去すると後任にはシェルルフが推されて就いた。ブレガーはシェルルフの後継で1890年に教授になった。

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