849.ノルマンド石 Normandite (ロシア産) |
アルカリ火成岩、特に霞石閃長岩中にはチタン、ジルコン、ニオブなどの希元素が濃集して希産鉱物をなすが、そうした地質は極圏に集まっており、ノルウェーのランゲスンツ、グリーンランド、ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチラールなどがその代表例といえる。
本鉱はモンサンチラールの名高いプードレット採石場で
1980年に発見された。霞石閃長岩中に曹長石、クプレスキー石(cf.No.846)、ソーダ沸石、ドネイ石-(Y)
などを伴って産した。当時は超希産かと思われたが、86年に同じ採石場から夥しく産出して、以来お馴染みとなった。他の随伴鉱物としては微斜長石、エジリン、カタプレイ石、ユージアル石、カンクリン石、ビリオム石、リンク石などが報告されている。ほどなくロシアのコラ半島、モロッコ、カナリア諸島でも同様のものが見い出された。
IMA には1990年に申請されて Normandite
として記載された。論文は1997年に出ている。それによると発見者のシャルル・ナウルマンに献名されたもので、Nawrmandite
ナウルマンダイトと発音することになっているが、和名はノルマンド石が一般的。ついでに言うと、プードレット採石場からは同時期に他に3種の新鉱物が記載されている。Rouvilleite(採石場のある郡名による)、Nalipoite
(組成 NaLi2(PO)4 による)、Silinaite
(組成 NaLiSi2O5・2H2O による)。
ノルマンド石の理想組成は NaCa(Mn,Fe)(Ti,Nb,Zr)Si2O7OF 。ヴェーラー石グループの一で、単斜晶系。ローブン石(ローヴェナイト)のチタン優越種として位置づけられる。ややオレンジがかった赤褐色が実際的な特徴だが(繊維状のものは絹糸光沢)、前項 No.848 に書いた通りこのグループの種同士は精確な区別が難しい。記載論文の著者らによると、モンサンチラールでは同じ晶洞にヴェーラー石、ローゼンブッシュ石、ヒオルダール石とが揃い踏みで出たこともあるという。おおまかな見分け方としては、ヴェーラー石は黄色の板状、ローゼンブッシュ石は淡黄色で繊維状、ヒオルダール石は淡黄色で厚めの針状、ローブン石は茶色がかった黄色で針状〜繊維状、そして本鉱はオレンジ〜黄色で針状〜繊維状で産する傾向が指標になるとか(少なくともこの産地では)。また含チタン・ローブン石というべき中間的なものも出る。
画像の標本はコラ半島産。やはりオレンジがかった赤褐色を示し、長柱状〜繊維状に放射集合していることが多い。同じ産地から星葉石の標本が出て、ある標本商氏によると、ノルマンド石のラベルがついた星葉石をよく見かけるという。ということは本鉱の方が人気があるのかもしれない。どちらも放射星状ではあるけれど、星葉石はかつて「茶色雲母」と呼ばれたように雲母に似て薄く剥がれて、へき開面が金属箔めいてぎらぎら輝く。感じは大分と違っている。