687.エピストライト Epistolite (ロシア産)

 

 

エピストライト(中央左上の淡桃色部や左端の薄層部) 、
ステーンストロップ石(右上側の褐色)、
ウシン石(基岩をなすライラック色)、セラン石(右上側のサーモン色)、
-ロシア、コラ半島、ロボゼロ、ウンボゼロ鉱山、Shkatulka pegmatite産

 

Epistolite エピストライトは、 フリンク博士(1849-1932)が1897年にイリマウサクで採集した標本をベーギルド(1872-1956)らが研究し、1900年に記載した種である(cf.No.681)。その名はギリシャ語の「手紙」に因んだ。白い薄板状の長方形をしていたことから、グリーンランドからの鉱物便り、と洒落たのであるが、それはまた彼ら若き鉱物学者たちが、尊敬する先輩から託された採集標本に秘められていた手紙に気づき、その封を開いて見事メッセージを解読してみせました、という高揚感の表れであったかもしれない。
当時はイヒドゥートの氷晶石鉱山が全盛期を迎え、デンマークはグリーンランドの鉱産資源がもたらす富に沸いていた。デンマークの人びとにとって、北西海上はるかな辺境の島に眠る未知の鉱物は、自国にさらなる栄光をもたらす約束を載せた神の契約のように映ったであろう。エピストライトの名には、ライツェン・コレクションから見出された新鉱物が(1894年に)エルピド石(希望の石)と名づけられた先例に通じる、高揚したロマンチックな時代の気分も含まれているように思う。

エピストライトはニオブやチタンを含む珪酸塩二次鉱物で、組成式 Na2(Nb,Ti)2Si2O9・nH2O。イリマウサクではふつうペグマタイトや熱水脈に産するが、Lujavrite やnaujaite からの風化物としても見出される。クバネフィヨルドの試掘坑ではツグツープ石を含む曹長石−方沸石脈中に、ソーダ沸石、方ソーダ石、ステーンストロップ石を伴って大量に産した。またタセック・スロープなどの複合岩体ではウシン石を含む脈中に産する。不規則な板状をなし、長さ10センチ(厚さ5ミリ)ほどの大きさになることもある。色はふつう純白〜クリーム色で、時にピンク色を帯びる。近縁種のムルマン石(チタン成分がニオブに優越する)に似た外観のものもある。

エピストライトの主な産地は世界に3つあり、グリーンランド、ロシア、カナダの霞石閃長岩(複合岩体)地域がそれである。
画像の標本はロボゼロのウシン石ペグマタイト中に産するもの。
この3つの地域では世界でも珍しい希産鉱物がいくつも共通して産する。これらは、海を挟んで極北に散らばる離れた土地が、地質学的に類似していることを顕わに示す、産地を結ぶ手紙ともいえるであろう。

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