894.ラズベリー・ガーネット Raspberry Garnet  (メキシコ産)

 

 

ラズベリー・ガーネット Raspberry Garnet

ラズベリー・ガーネット(グロッシュラー種)
−メキシコ、コアウイラ州、シエラ・デ・クルス、レイク産

 

米国と国境を接するメキシコ・コアウイラ州の高地に、シエラ・デ・クルセズ(シエラ・デ・ラ・クルス)と呼ばれる山地がある。ハコ湖(Lake Jaco)という小さな湖を見晴るかす西側の斜面は、あちこちにスカルンの露頭があって一連の採掘坑が残っている。20世紀の半ば頃(1947年に遡るという)からハコ湖産のラベルをつけたグロッシュラーやベスブ石の標本が長く市場を賑わせてきた。グロッシュラーの多くはシナモン色で、結晶面の整った巨大結晶をなした。(cf.No.248

シエラ・デ・クルセズ牧場の南側のとある谷あいの北面で、牧場主が小さな赤い結晶を見つけたのは 1994年初のことという。彼は友人に教えられてそれがガーネット(灰ばん柘榴石)であると知り、標本商ベニー・フェンの手引きで鉱区を張ると、数多の標本を掘り出した。濃赤色〜ラズベリー色〜いちご色〜ピンク色のガーネットは翌年のツーソンショーの目玉商品となり、「レッド・グロッシュラー」「ラズベリー・ガーネット」と愛称されて一躍銘柄標本の仲間入りを果たした。
思えばこの時の強い衝撃は、10年後、マダガスカルで発見された赤色のベリル類似鉱物(ペツォッタイト)が「ラズベリー・ベリル」「ラズベリル」の名で売り出された由縁と考えられる。

その頃日本では、ツーソン帰りの標本商さんが一斉に売り出す海外産の新着標本が(国産品にこだわらない)蒐集家のなによりの愉しみであった。私などもその2月あるお店に顔を出して荷解きを眺め、「これは絶対お勧め !!!!」という店主店員の気迫に押されて、我が懐にはいささか厳しい値付けの標本を一つ求めた。
その後別の、顔馴染になり始めたお店を訪えば、ここでも「こんなガーネットは初めてみた !!!!!」と店主が興奮しきりで勧めてくれる。まさかさっき買ってしまったとも言えないので弱った思い出がある。良心的なお値段だったのだが…。
H標本解説リストの95年1号には「紅グロッシュラー」として紹介されており、「…これまで見たことのない濃紅色ガーネットが発見された。今年のツーソンショーでもっとも一目(ママ)をひいた標本であった。」と筆にこもった熱気が感ぜらる。博士一目惚れの巻。
これで絶産にでもなれば蒐集家の本懐であるが(笑)、あいにくその後ショーの定番商品と化して、お値段も随分リーズナブルになった。2012年は大きなスポットに当たったそうで、またまた大量の標本が出回った。

グロシュラーとしては例外的に鮮やかなラズベリー色で、自形結晶も小さくないが、たいていクラックが発達しているためか、宝石としての商品開発には向かわなかったようである(そこまでの産量がなかったのかもしれない)。
大きな結晶は透明度が低く、内部に向かって赤〜ピンク〜白と、色の変化が見られることが多い。コアの部分が黒色になっていることもある。黒色部は鉄とチタン成分に富み、鉱物学的には灰鉄ざくろ石灰チタンざくろ石(ショーロマイト)の固溶比率の高い部分ということになる。時にルチルを含む。
一方、外側の赤色部分はマンガン成分に富む。黒色のコアとの間に明確な境界があり、黒色のざくろ石が晶出した後に環境圧や温度が急激に変動し、組成の上でも供給成分系に変化があったと考えられている。単純な接触変成で生じたものではないようだ。赤色はマンガンによる呈色で(※発色への寄与は Mn2+ でなく3価イオン Mn3+ という)、短波紫外線での赤色蛍光もマンガンが活性因子として働くとみられる。
マンガン分が最大となる外縁部の MnO含有率は 1.69~1.00%に達し、鉱物学的には満ばんざくろ石に相当するもの(>1.6%)があることになる。
自形結晶を示す標本は、たいてい方解石に埋もれた状態で掘り出されたものを酸処理して、ざくろ石を表面に出しているらしい。

 

補記:ピンク〜赤色のグロッシュラーとしてはかつてメキシコ・サロストク Xalostoc の白色大理石中に産したものがあり(1893年)、 ローゾライト Rosolite (Roso: 薔薇)、ランデライト Landerite (C.F.de Landero に因む)、サロストカイト Xalostocite などと呼ばれた。

 

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