893.灰バナジンざくろ石 Goldmanite (スロバキア産)

 

 

 

goldmanite

ゴールドマン石 - スロバキア、小カルパチア山地、ペジノク産

 

20世紀の中頃まで、珪酸塩基 (SiO4)3を持つガーネットにさほど多くの種類があるとは考えられていなかった。

当時知られたのは、まずマグネシウムとアルミの陽イオンを含むパイロープ(苦ばん柘榴石)(1803)、鉄とアルミのアルマンディン(鉄ばん柘榴石)(16世紀半ばにはその名があったようだ)、マンガンとアルミのスペサルチン(満ばん柘榴石)(1832)。これらは比較的融通自在に組成が混じり合うので、パイラルスパイトの総称がある。伝統的な血赤色の宝石ガーネットはこの系統のものである。

またクロムとカルシウムの陽イオンを含むウバロバイト(灰クロム柘榴石)(1832)、カルシウムとアルミのグロッシュラー(灰ばん柘榴石)(1811)、カルシウムと鉄のアンドラダイト(灰鉄柘榴石)(1868/ アンドラーダが アロクロアイト と呼んでいたもの 1800)。これらもまた比較的融通自在に組成が混じり合うので、ウグランダイトの総称がある。
パイラルスパイトとウグランダイトの間の成分置換はさほど自由でなく、混成は限定的とみられた。
つまり鉱物学の立場で見ると、大きく分けてあまり浸透性のない2つの組の下に、相互に自由に固溶体をなしうるガーネットがそれぞれ3種あり、都合6種が普通に見られるガーネット(コモン・ガーネット)であった。
言い方を変えるとたいていのガーネットは(6種あるうちの)いくつかの端成分の混合比で記述可能な物質で、親和性で分けると2つの大きな系列があると考えられた。一般的な鉱物図鑑で取り上げられるのはこの6種で、あとはチタンを含むウグランダイト系のガーネットにショーロマイトが知られたくらいだった(※後述)。cf. No.249

◆ところが1960年代になると、この分類からやや外れた組成のガーネットが報告されるようになった。
先鞭を切ったのはバナジウムを含む暗緑色〜茶緑色のガーネットで、1963年、ニューメキシコのラグナにあるウラン鉱山(砂岩中にウランとバナジウムが濃集した接触変成鉱床)から報告された。灰ばんと灰鉄ざくろ石の中間的な組成ながら、アルミよりも鉄よりもバナジウムの比率がぐんと高く、組成式 Ca3(V,Al,Fe)2(SiO4)3と記述出来た。ウグランダイト系の(灰ばん柘榴石の)、バナジウムが優越した特殊なものといえようか。米国地質調査局(USGS)のマーカス・I・ゴールドマンに因んで、ゴールドマナイト Goldmanite と命名された(和名は灰バナジン柘榴石がメジャーだが、ゴールドマン柘榴石とも)。

また同じ頃、奄美大島のマンガン鉱床を掘る大和(やまと)鉱山の鉱石からもバナジウムを含むガーネットが報告された。こちらは灰ばん柘榴石と満ばん柘榴石の中間的なもので、(Ca,Mn)3(V,Al)2(SiO4)3 と表現出来た。パイラルスパイト系とウグランダイト系に跨る風変わりなガーネットといえる(Ca 60%, Mn 40%ほど)。
発見譚も少し風変わりで、この鉱山から高知県のある工場に出荷されたマンガン鉱石の中に鮮やかな緑色の脈が含まれていることが気づかれ(1961年頃)、吉村・桃井らによってクロムを含む未知のマンガン鉱物ではないかと研究が始められた。ところがうまくクロムを分離できなかったため、分光分析を試したところクロムは含まれておらず、バナジウムの強いスペクトルが観察されたのだった。新種のガーネットとして大和石(ヤマトアイト) Yamatoite の名で申請されたが、1週間ほどの遅れでゴールドマナイトに記載を譲った。

マンガンを含む性質(いわば満バナジン柘榴石と灰バナジン柘榴石との固溶)は、本家ゴールドマナイトにないもので、一方の端成分にあたる前者を大和石と呼んではどうかという提案がなされたが、天然に確認されていない種を記載するのは IMA 新鉱物・鉱物命名委員会の仕事ではなかった。とはいえ、人工的に合成した満バナジン柘榴石を大和石と呼ぶことを妨げるのも IMAの任でなく、その名は鉱物学者の間で半ば既成事実(非公式の予告名)として知られた。
Dana 8th (1997)のゴールドマナイトの項には、「Yamatoite はゴールドマナイト類似のマンガン置換合成物、ただし天然には発見されていない」とある。(後に天然にも発見される。)

1990年、日本の第31次南極観測隊(1989-90)によって、東南極、セール・ロンダーネ山地中央部メーニパ山塊の片麻岩中にバナジウムを含む美しい草緑色のグロッシュラーと共にゴールドマナイトが発見されて話題となった。この山地は東ゴンドワナ大陸と西ゴンドワナ大陸とが 5〜6億年前に衝突した地質学的に興味深い場所として、第25次隊以来調査が続けられている。1000℃に達する超高温変成作用が起こったとみられ、現在の地質はマグマを生じた後に溶け残った岩石で構成されたものといわれる。
若干量のクロムやマンガンを含むゴールドマナイト/グロッシュラーもあり、小山内らによる報告論文(1990)では、固溶体比を示すために大和石を含む各種ガーネット名称が用いられている。
ちなみにこの産地では第50次観測隊によって青いコランダム(サファイア)やスピネルも発見された。昭和基地から 600キロ離れており、陸部のほとんどが氷床に覆われた南極大陸にあって岩石の露出した数少ない土地である。

ゴールドマナイトは希産種だが産出報告は世界各地にある。一般にクロム分に乏しく灰ばん柘榴石との2成分系で記述出来るものが多いが、スロバキア西部のペジノク産は比較的多量のクロムを含む。バナジウム:クロムの比が 7:3〜5:5 の範囲にあり、ゴールドマナイトと灰クロム柘榴石間にある程度の固溶体関係が成立することを示している。産地は 500℃程度の熱変成を受けた地層。固溶体比の変動範囲は、ゴールドマナイト 27-65 mol%、灰クロム柘榴石 19-34 mol%、灰ばん柘榴石 1.5-33 mol%、大和石 2-5 mol%  という (パーヴェル・オイアら 1994)
自形結晶を示す標本が出回っており、上の画像もこれである。結晶サイズは小さく、ふつう 1mm程度。炭素を含むために緑というよりほぼ真っ黒に見える。

◆ゴールドマナイト(1963)に次いで 1968年にはマグネシウムとクロムを主成分とする苦土クロム柘榴石 ノーリンジャイト Knorringite: Mg3Cr2(SiO4)3 が記載された。アフリカ大陸南部、レソトのキンバーライト・パイプ中に発見され、パイロープと固溶体をなす種で、ふつうはアルミ分を含んで青緑〜赤紫色を呈する。人造の純粋物は暗緑色。ダイヤモンドやパイロープと同様、超高圧環境で生成するとみられ、ダイヤモンド探査の指標鉱物となる。ロシアのダイヤモンド鉱山(キンバーライト・パイプ)でも発見されている。英国リーズ大学の鉱物学者オレグ・フォン・ノーリングに献名された。

1969年に記載されたメイジャー柘榴石 Majorite もまた超高圧環境で形成される柘榴石で、西オーストラリアに落下したクーララ隕石中に見出されたのが初め。後にキンバーライトが地表に運んできたマントル捕獲岩中にも見つかった。地下400-500km以上の地下深くで形成されるとみられ、理想組成より珪素分の多い特殊な鉱物である。超高圧下に「かなりの無理をして別種の鉱物である輝石と固溶体を作った」(奥山康子)ものという。ただ地表では固溶していた輝石を分離して複雑な組織の柘榴石に変化していることが多い。組成式はMg3(MgSi, Fe, Al)2(SiO4)3 。苦土ケイ素柘榴石あるいは含輝石・苦土柘榴石とでもいうのか。オーストラリア国立大学のアラン・メイジャーに献名された。

カルダー柘榴石 Calderite はマンガンと鉄を主成分とする満鉄柘榴石で、もともとインド、マディヤ・プラデシュ州産の含マンガン性の塊状柘榴石にその名があてられ(1850年頃)、ナミビア産のマンガンと鉄を含む柘榴石にも用いられた(1909年)。ナミビア産の再検討により種として認められたのは 1979年以降である。灰鉄柘榴石と満ばん柘榴石との間に固溶体をなし、(Mn,Ca)3(Fe,Al)2(SiO4)3 と記述することが出来る。純粋物は高圧(>22GPa)低温でのみ安定する。インドの地質学を研究したジェームズ・カルダーに因む。cf. No.378 ポリアデルファイト

今日、ガーネットグループには 14種が記載されているが、コモン・ガーネット 6種に加えて、以上の 4種(ゴールドマナイト、ノーリンジャイト、メイジャーアイト、カルダーライト)、及びモリモトアイトが 20世紀後半に確認された。いずれも希産種である。
(※含チタン柘榴石の仲間に灰鉄柘榴石の亜種としてメラナイト、若干の 3価の鉄イオンを含むショーロマイト Ca3(Ti,Fe3+)2((Si,Fe3+)O4)3 があったが、対して若干の 2価の鉄イオンを含むモリモトアイト Ca3(Ti,Fe2+,Fe3+)2((Si,Fe3+)O4)3 が 1992年に記載された。岡山県布賀が原産地。なお、ショーロマイトは結晶構造上ショーロマイト・グループに分類されて、ガーネット・グループと区別されている。和名はチタン柘榴石、灰チタン柘榴石とも呼ばれた。モリモトアイトは森本ざくろ石。)

◆ガーネットグループの残りの 3種、エリンガアイト Eringaite、メンツェライト Menzerite-(Y)、モモイアイト Momoiiteはいずれも 2009年に記載された。
エリンガアイトはカルシウムと希土類元素スカンジウムを主とする柘榴石で、理想組成式 Ca3Sc2(SiO4)3。ロシアのサハ共和国ビリュイ川流域のエリンガ川に産したことからその名を得た。
メンツェライトも含希土類ガーネットでイットリウムを含み、理想組成式 (CaY2)Mg2(SiO4)3。実際は第一項に他の希土類や2価の鉄、第二項に2価及び3価の鉄やアルミなどが入る複雑な組成である。ドイツの結晶学者ゲオルク・メンツェルに献名された。

モモイアイトは日本では桃井柘榴石と表記されている。献名された愛媛大学の桃井斉(1930-2002)は上述の大和鉱山産の含マンガン・ゴールドマナイトを研究された方。
マンガン-バナジウム系の(大和石を端成分に持つ)ガーネットは、1980年代に大和鉱山産のものが再検討され、21世紀に入って大和鉱山の他、愛媛県鞍瀬鉱山、京都府法花寺野、福井県藤井鉱山産(いずれもマンガン鉱床)のものが研究されたが、後3者の標本中に微粒状のマンガン優越部 (Mn, Ca)3(V, Al)2(SiO4)3 、すなわち天然の大和石・満バナジン柘榴石が確認されて、新種記載の運びとなった。
この成分系は 2008年まで半世紀近く慣例的に大和石 Yamatoite と呼ばれており、種名検討の際も大和石が候補だったが、桃井氏の顕彰を重視してモモイアイトとして申請・承認されたらしい。
鞍瀬産はマンガンとカルシウムが相半ばするものが多く、バナジウムに対してアルミ分の乏しい特徴がある。すなわちモモイアイトとゴールドマナイトが密接に伴う(満ばん柘榴石もある)。ゴールドマナイト部より緑色が濃い(暗い)傾向がある。
法花寺野産は満ばん柘榴石のなかに、含バナジウム性のものやバナジウム優越のモモイアイトがある。両鉱山の産状の違いを反映したものと考えられる。
藤井鉱山には両方の産状があり、標本の分析結果もゴールドマナイト-モモイアイト-満ばん柘榴石に散っている。
なおモモイアイトは現在のところ日本以外からは報告されていない。

◆以上、ガーネット・グループの種をざっとまとめて記した。ガーネットの成分間の固溶体関係の理解に、パイラルスパイト-ウグランダイトの2系統分類や成分に基づく和名(例:灰クロム柘榴石)は直観的で分かりやすかったが、さまざまなガーネット種が見出されるにつれ、あまり重視されなくなったようだ。(IMA は研究者間の同志組織だから、国際名はもともと身内同業者の顕彰記念を優先して名称が与えられている。)

各種名は固溶体関係を記述するための端成分を表す名称として有用だが、現実には純粋な端成分物質が天然に見い出されていないもの、あるいは存在しないと考えられているものもある。また固溶関係の連続性が合成物では確認されているものの、天然に中間物が見い出されていないものもある。生成に特殊な温度・圧力環境を要する柘榴石もあり(特にレア・ガーネットや純粋なパイロープなど)、すべての柘榴石が地表環境で安定しているわけではない。

 

補記:現在の IMA 分類はガーネット・スーパーグループが設けられて、ガーネット・グループ 14種のほか、ショーロマイト・グループの 6種、ベルツェリアイト・グループの 4種など、合わせて 39種がガーネットタイプの結晶構造を持つものと認められている。
グロッシュラーの加水系として知られたヒブシュアイト(ヒブシュ柘榴石) Hibschite は種名から外されて、カトウアイト(加藤柘榴石) Katoite が残っている。

補記2:モリモトアイト Morimotoite の和名表記は、記載者が「森本ざくろ石」と明示されており、「森本柘榴石」は誤記だとどこかで読んだ覚えがあるのですが、一般にはどちらも使われているようです。「日本の新鉱物」(2001 宮島・松原)は森本柘榴石と。

補記3:ちなみにスカルン型鉱床に産するガーネットは微量成分として酸化スズ SnO2 を結晶構造内に取り込む性質があるという。この場合、磁鉄鉱型の花崗岩に伴う鉱床では含有率は数十ppm 程度に留まるが、チタン鉄鉱型の花崗岩に伴う鉱床では数百から数千ppm 程度と格段に高くなる傾向がある。

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