939.山入り水晶 Ghost Quartz (ブラジル産)

 

 

 

ヤマ入り水晶  結晶の内側に濃緑色のとんがり山の形が見える。
山の下の左側にも濃緑色の縦筋が見える(柱面に相当)。
−ブラジル、M.G., クディシュネック、パウリスト・プレシデンテ産

山入り水晶のツイン 結晶面に激しい蝕像が現われている

上のツインの頭部をC軸(柱面の軸)の上方から見た画像。
6つの錐面が見えるが、一つおきに面サイズが大小の組となっている。
(大面3ケ、小面3ケ) 柱部の断面は六角形状。

ツインの肩に現れた小面。 (右水晶と左水晶とが並んでいることが分かる)
−ブラジル、M.G., クディシュネック、パウリスト・プレシデンテ産
⇒ 結晶の対掌性、結晶面の配置は No.970を参照

 

 

水晶は二酸化珪素 SiO2 に相当する組成の鉱物で、ストルンツの分類では酸化鉱物に帰属されているが、珪酸塩の基本基となる[SiO4]4-が重合した形と考えて、珪酸塩として扱うことも出来る。
実際、博物館などで展示されている水晶の結晶構造モデルは、これを強く連想させるものである。[SiO4]4- は4個の酸素 Oが頂点を構成する四面体形状を持ち、中心に1個の珪素 Si が入っている。しばしば珪素原子からテトラポットのように4方に結合の手を伸ばして酸素原子と繋がった骨格でイメージされる(※実際に手に相当する直線的な絆があるわけではない)。結合方式はイオン結合と共有結合の性質がほぼ半々だそうだが、酸素イオン半径の空隙にぴったり珪素イオンが収まるきわめて坐りのよいユニットであり、あたかも1ケの陰イオンのように構成単位として振る舞うことが出来る。そしてたいてい陽イオンの性質を持つ金属イオン(群)と結合して珪酸塩鉱物を作る。

[SiO4]4- ユニットの不思議なところは、別のユニットと酸素を共有するカタチで容易に重合して、より巨大な構成単位(ポリイオン)となりうることである。ユニットが孤立したまま鉱物を形成したのがネソ珪酸塩(かんらん石など)、二個重合(連結)したのがソロ珪酸塩(ベスブ石など)、リング状に繋がっているのがシクロ(サイクロ)珪酸塩(緑柱石など)である。この他数珠状に延びたり(輝石など)、二連の数珠状となったり(角閃石など)、2次元シート状や(雲母など)、3次元網目状に繋がった単位を構成したりする(沸石など)。

水晶がこれらの珪酸塩鉱物と少し違っているのは、結合の相手として電荷を補償する金属イオン(群)がなく、ただ[SiO4]4- ユニットが3次元網目状に連接した構造で自己完結していることである。結果的に珪素1ケに対して酸素2ケの比率となって電荷バランスがとれている。いわば究極形である。
ここで私によく分からないのは、結晶構造モデルの結晶面(端部)がどう区切られるのかということだ。仮に SiO4ユニットの酸素4ケがそっくりくっついて、いくつかの酸素は別ユニットの珪素と結合していないとしたら、その分組成に必ずOが余分に含まれて表面に陰性を持つことになるだろう。とすれば、この(成長途上の)表面部にはある比率で珪素イオンが余分にくっついて電荷をバランスするのが順当であろう。あるいはある比率で酸素が外れなければならない。しかしどのように? (構造形を乱さずに?)
これを別の面から見れば、水晶の成長には [SiO4]4- ユニットあるいはその発展形(おそらく数珠状)のユニットの連結(重合)だけでなく、(水分の介在によって)ユニットの結合を切ったり、単騎の珪素が構造に入り込む機構が不可欠なのではないか。

さて、具体的な結晶構造は次項で触れるとして、先に水晶の外観的な特徴を述べれば次のようである。
・ふつう、頭部に錐面を持った六角柱状の結晶として産する。(補記1)
・一方の頭部に6つある錐面は大きい面と小さい面とが交互に並ぶことが多い。6つとも同じ大きさであることは珍しい。
 (三方晶系の構造と関係があると思われる。六方晶系のベータ石英(高温水晶)では本来的に同じ大きさになるはず。)
・ふつう、6つの柱面が見られる。柱面の長さは柱面の幅の1.5〜3倍程度になることが多いが、これよりずっと長く伸びて針状になることもあるし、柱面がない、あるいはごく短いこともある。
・ふつう、柱面の軸(c軸)に垂直なc面(緑柱石に現われるような頭部の水平面)はみられない。一般に柱面の成長速度より錐面の成長速度の方が早く、c面の成長速度はこれよりずっと早いため。(一般に結晶は相対的に成長速度が遅い面で囲まれる。)
・水晶はc軸の方向に([SiO4]4- ユニットが)らせんを描いて連なる結晶構造を持つ。このらせんの影響は必ずしも外観に現れないが、あるタイプの結晶面が出ている場合はその対掌性(左手型か右手型か)を推測することが出来る。また蝕像がある場合は、その形状がやはり構造の対掌性に呼応している。

以上のことを画像の2つの標本で確認してみる。
これらはいわゆる「山入り水晶」で、結晶が成長する途中に一度休止期があり、その間に錐面に緑泥石が付着(沈積)したと考えられる。
上の標本では錐面(ヤマの部分)のほか、左側の柱面にもうっすらと付着しており、その時点の結晶サイズが窺われる。その後、成長が再開して、結果的に今見る形まで育ったと考えられるが、柱面が太った幅よりも、柱面が伸びた長さが2倍以上あることが分かる。これが面の成長速度の差を示唆している。2番目のツイン(同じ産地の標本)も同じ傾向を示す。

上から3枚目の画像は、2番目の標本をc軸の上方から見たもの。柱面が六角形状になっていることが分かる。柱面は6つ、錐面も6つある。昔、水晶を六方石と別称した由縁。
六角形状はいくらか扁平で、錐面の頂点は必ずしも六角形の中央に来るわけでないことが分かる。また画像では判然しないが、内部の山の頂点の位置は外面の頂点の真下にはない。環境によって(あるいは内在する要因にもよって)、成長が必ずしも等方的に進まないことが分かる。
またこの画像から、錐面に広い面(相対的に成長の遅かった面)と、狭い面(小さな三角形の面/成長の早かった面)とが交互に出現することが分かる。

一番下の画像は2番目の標本の肩の部分(錐面と柱面の間)に注目したもので、2ケの結晶のそれぞれにスリット状の斜め上がりの細い四辺形が見えている。この面の現われ方で、結晶構造の対掌性が区別出来る。左の結晶が右旋光性の右手水晶で、構造は左手型 (P3121 空間群)。右の結晶が左旋光性の左手水晶で、構造は右手型 (P3221 空間群)である(ややこしい)。

2番目の標本は自然環境で生じたものか、採集後のクリーニングで現われたものか、蝕像が多くみられる。彫刻刀で刻んだような✓点状の凹像で、左の結晶では左下の深い窪みから右上に浅く跳ね上がった形状、右の結晶では右下の窪みから左上に跳ね上がった形状をしている(等価の面で比較)。この不等辺三角形の蝕像も、結晶構造の対掌性に呼応して向きを違える傾向がある。(一つの結晶でも面によって形状の向きが異なり、r 面と z 面とで対掌、また柱面でも隣り合う面 m, -m面の間で対掌。二等辺三角形状の蝕像が現れる場合は区別できない。)

(続く→ No.940No.941

補記1:水晶といえば、先端の尖った六角柱状の結晶、なのだが、結晶学的には柱面は必ずしも出現する面ではない。先端の6つの錐面も、揃っているとは限らない。
錐面は大きな錐面(r 面)3ケと小さな錐面(z 面)3ケとに区分出来るが、r 面だけの結晶、 z面だけの結晶がありうる(3方晶系)。この種の結晶は6つの菱面から構成される菱面体の形状となる。そこで結晶学(鉱物学)的には、水晶の錐面は錐面と呼ばず、「菱面体面」と呼ぶのが正調らしい。(似たような形でも緑柱石などの6方晶系の錐面は、6面等価なので「錐面」と呼ぶそうだ。) 私としては一般常識に拠って、水晶の「菱面体面」を「錐面」と記す。

鉱物たちの庭 ホームへ