952.ねじれ水晶(柱軸周り)  Twisted Quartz (ブラジル産)

 

 

 

quartz twisted ねじれ水晶

長柱状のねじれ水晶(軽く煙る) 先端の錐面は分岐している

quart macromosaic structure 水晶のマクロモザイク

柱面に発達するマクロモザイク構造

quartz twisted gassy planes inside

(半透過光撮影)
内部には気泡の集中した領域が周期的に現れて、
柱軸を切るような(擬似)平面をいくつも形成している

quartz twisted 15 deg per 10cm

柱軸の斜め上方からみた柱面 
連続的にネジれていることが分かる
10cm長さの間に約15度の旋回をみる。

ねじれ水晶

ねじれ水晶 −ブラジル、M.G.、ガバナドール・バラダレス、
ラブラ・ド・イップ長石鉱山産

 

 

No.950No.951 に、外観の特徴から結晶格子(構造)の揺らぎ、もしくは短・中距離秩序の変動を伴って成長したと推測される水晶の例をいくつか挙げた。長い大傾斜面を持つ水晶に伴って現われたマクロモザイクや結晶面のネジレ。分岐した柱面や錐面(尖頂部)に見られるアイデンティカルな面同士の小さな傾き(本来なら平行)。干渉帯をなすファーデン(縫糸)を挟んだ柱面の条線の不整合。
これらは巨視的には一致した構造秩序を持つ単一の結晶に見えながら、実際は無数の局部的な結晶成長が同時多発的に進行して、さほど厳密でない緩い相関の下であたかも単結晶のような形に統合されうることを示しているようだ。
その一方で構造のズレが累積して全体の形状が(巨視的に)湾曲してゆく連晶機構にも、通じていると思われる。

No.951の 3つめの標本はスイス産のいわゆる「グウィンデル」(クヴィンデルン)で、柱軸に垂直な軸(a軸)方向に連続的に旋回した亜平行連晶形のねじれ水晶だった。cf. Q07
対比して 2つ目のパキスタン産の標本では、分裂した錐面が柱軸(c軸)周りに相互に回り込むネジレが生じている。このネジレが一本の柱状結晶全体を通じて等分に現れると、ドリル的な外観を持った水晶になる。本ページの標本がそうである。

あたかも一つの「ねじれ秩序」の下にすくすくと成長したかに見えるが、経験則としてはあまり現れない形状である。これもまたグウィンデルと呼ばれて、a軸方向に伸びる簾(すだれ)タイプよりさらに出現率が低い。
ねじれ水晶への気づきは古くヨーロッパ・アルプス地方に始まるが、c軸周りのねじれ水晶でもっとも有名な例は、おそらくアメリカ、コロラド州パイクス・ピーク産の古い標本(AMNH蔵)だろう。柱長 21cmの間に約 45度(2.1度/cm)に及ぶ滑らかな捻じれを示す細柱状の結晶で、 フロンデルのDana 7th (1962)に図版が載り、益富「鉱物」(1974)や秋月「山の結晶」(1993)に言及がある。錐もみという言葉が浮かぶ。
益富博士はこのタイプの捻じれをツイスト・ダンスに見立てて、「黒水晶にときどきこれがある」といい、岐阜県苗木や滋賀県田上の両地方(江戸期以来の水晶の名産地)で稀にみつかる、と述べた。
堀博士は高校の修学旅行の時に隠密に単独行動をとって、東京から京都へ向う途中で中津川に立ち寄り、産地案内人に無理から頼み込んで、3cm長さのc軸周りのねじれ煙水晶を入手した。他に匹敵するもののない珍品として、「水晶の本」(2010)に画像を載せている。秋月博士は上掲書に蛭川村(現・中津川市蛭川)博石館蔵の逸品の画像を載せている。
一般にねじれ水晶は濃い煙水晶に多く、淡い煙水晶や黄色や無色の水晶では稀だという。今日では広島県江田島に実に見事なねじれ黒水晶が出るようだ。

Dana 7th によると、ねじれの程度はたいてい 1〜5度/cmの範囲に収まる。スイス産の水晶に関するある研究では平均 3.7度/cm、別の産地のスイス産では平均 1.2度/cmの数字が示されている(秋月「山の結晶」では、後者の値が 2.1度/cm になっている。また c軸周りのねじれ角と説明しているが、Dana 7th は a軸周りのデータのように書いている。多分どちらも同じ程度のねじれなのだろう)
向きを言えば、a軸周りの水晶のねじれは右手水晶で右回り、左手水晶で左回りになる。一方 c軸周りに捻じれる場合はこれと逆で、右手水晶で左回り(反時計回り)、左手水晶で右回り(時計回り)になる。
後者は結晶構造中の SiO4 四面体の連なりが c軸方向になす螺旋と同じ向きで(cf. No.940No.941)、このことから秋月博士や堀博士らはねじれが分子レベルの結晶構造に関係があると考えたようだ。

出現確率からすると、連続的に進行するねじれは例外的なものである。連続的でない局部的なねじれや揺らぎは、あるいはもっと一般的にあり得るのかもしれない。とはいえ、これを単結晶に現われた性質と考えると、「面角一定の法則」が破れていることになる。
むしろねじれ水晶は(c軸周りも a軸周りも共に)単一の結晶でなく、無数の微小な結晶単位が少しずつ相互の軸方向をずらしながら接合した複合体と解釈するのがベターであろう。細く短い水晶の束が軸を少しずつ傾けながら亜平行連晶的に連なって伸びてゆくイメージである。
少なくともフロンデルはこの種の水晶を結晶集合体として捉えており、X線分析によると個々の単位には構造の歪みがなく(捻じれておらず)、ねじれは集合体としての性質だと指摘している。集合体はマクロモザイク(※という用語は使っていないが)やラメラの構造をもち、偏光で検査すると単位間の接合部に(軸/面の)傾きが観察されるという。ただ、なぜ傾き(ねじれ)が発生するかは不明とした。(J.シンカンカス博士も、ねじれ水晶 "gedrehten", "gwindel"は多数の結晶の集合体だとしている。)

普通の水晶に稀で、煙水晶に多いという点からみて、成分的に SiO4 四面体の珪素をアルミニウムが置換して入る構造がねじれを導くとの推測がある。というのは、煙水晶の色(黒〜薄茶色)は含有されたアルミイオンが放射線(ウラン、トリウム)の影響を長期間受けることによって発現すると考えられており、一方でアルミイオンが入った四面体は単位格子の長さが幾分か伸びて、歪みの発生を許容する(伴う)と考えられるからである。
スイス・アルプスでは、グウィンデルはねじれのない普通の煙水晶と共産している。もちろんグウィンデルの方が稀である。従って、アルミニウムの含有が必然的に連続的な(巨視的な)ねじれを起こすというわけでなく、何らかの規則的要因が少数の結晶(集合体)にだけ作用したか、あるいは単に統計的にごく低い確率の現象として連続的なねじれが発生するのだろう。
ちなみに a軸周りのねじれ水晶には微斜面の x面が大きく発達したものがあり、ねじれとの関連が指摘されている。

スイス産のグウィンデルはその柱面の一方(a軸方向)が母岩に接する傾向があり、普通の水晶は柱面(c軸)が屹立する向きに接する傾向がある。左ねじれと右ねじれとが一つの晶洞に共産し、両者の発現確率は同程度であるらしい。
ねじれ水晶にドフィーネ式、ブラジル式の双晶が現われることは稀である。
Dana 7th(1962)の頃、ねじれ水晶はウラル北部(煙水晶で有名)やイタリアのカラーラ地方(大理石の有名産地)にも知られていた。煙水晶の大産地であるブラジルやアメリカのアパラチア山脈やニューイングランド地方では、あまり知られなかったらしい。
しかし今日ではブラジルのいくつかの地域、ミナス・ゼラエス州のコリント地方やノヴァ・リマのモロ・ヴェルホ鉱山、バヒア州のレメディオスなどにグウィンデルが知られており、亜平行連晶形によるカテドラル水晶は各地に報告されている。

画像の標本は 1960年代に採集されたものという。ラブラ・ド・イップは長石を掘る鉱山で、70年代に標本の買付けに訪れたアメリカの業者さんが、オーナーの机の上に飾ってあったのを見つけて買い取り、長くプライベート・コレクションにされていたものである。
淡い茶色に着色した煙水晶で、約10cm長さの柱面が根元と先端の間で 15度ほど捻じれている。その表面はマクロモザイク構造が発達し、頭部の錐面は複数に分裂している。
3枚目の画像のように、透過光で見ると、気泡により白濁した領域が1cm前後の間隔でいくつも並んでいる。柱軸(c軸)方向への成長の過程で、その時々に現われていた頭部の分裂錐面の形状を留めたファントムらしい。これらの位置では結晶構造の歪みの累積が許容範囲を越えて、結晶単位の接合に無理が生じて気泡の残留を余儀なくしたのかもしれない。

cf. C.Frondel "Twisted crystal of Pyrite and Smoky Quartz" (AMNH Novitates No.829 -1936 March 19th)
上述のパイクス・ピーク産の c軸周りのねじれ水晶やサン・ゴタール産の a軸周りのねじれ水晶の美晶が画像入りで紹介されている。ネット上で pdf 閲覧可。 後者の結晶は American Mineralogist Vol.63 (1978) にも載っていて、その模式図が秋月「山の結晶」に引用されている。

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